劇場公開日 2023年5月5日

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「個々どうしても気になる点もあるが、今週ではおすすめ枠。」銀河鉄道の父 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5個々どうしても気になる点もあるが、今週ではおすすめ枠。

2023年5月5日
PCから投稿

今年147本目(合計798本目/今月(2023年5月度)4本目)。

「銀河鉄道の夜」などで知られる宮沢賢治ではなく、その父に焦点をあてて作られたストーリーです。「実話に基づく」等とは映画内で明示的に書かれていませんが、あることないこと入れると問題になりますので、どうしてもわからない点以外は基本的に史実に沿ったものと考えることが可能です。

この観点ではドキュメンタリー映画の様相にはなっていないものの、事実上はドキュメンタリー映画と同じような見方になってしまうし、歴史(時間軸)の流れも一つだけで(巻き戻し処理は一切存在しない)、ストーリーとして理解に支障をきたす部分はないものの、行政書士以上の法律系の資格持ち(特に憲法、行政法ほか)が混乱したり、明らかに妙な描写もあり、うむむ…といったところです。

ただ、いわゆる「映画の撮影に使われるロケ地」(この場合、京都の太秦映画村?)等、「最大公約数的にどんな映画でも撮れるように作った場所で作成されたから」という理由で発生したものと思える点も見られ、どこまで映画側の帰責問題として論じるのかはかなり微妙です。

また、映画内での描写は明確に不足しているものの、だからといってこの映画を見て「質屋をやってみようか」という方がほぼほぼ存在しないと思われるので、そこの減点幅もないに等しいです。

総じていえば、「実際のドキュメンタリー映画ではないが、それに準じた扱いを受ける」映画であり、ほぼほぼ淡々と事実だけが語られるタイプの映画で、これを映画かというと微妙な部分はありますが、じゃ美術館やプラネタリウムで流すのかというとそれも違うし、まぁ、「どこで流すのか」といえば映画館、ということになろうと思います。

 評価は下記の4.3を4.5まで切り上げたものです。

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 (減点0.4/質屋取締法(現、質屋営業法)に関する問題)

 ・ 日本は明治維新に入ったとき、民法はフランス・ドイツの既存のものを参考にしてつくられた経緯があります。2023年時点では条文が変わったりなくなったりしたものもありますが、元はといえば精神は変わっておらず、「フランス・ドイツのごちゃまぜ文化」なのが日本の民法の特徴です。

 この当時の民法でも「質権」は物権(担保物権)の中でも扱われていましたが、江戸時代にすでに質屋に相当するものは存在していたので、特別法としての「質屋取締法」(現在は廃止。現在は質屋営業法)が成立しており、一般的な質屋はこの特別法のもとでの運用でした。

 しかし当時の「質屋取締法」を見ると(カタカナ表記、漢文表記ほかは、適宜現在の表記に修正)

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  >6条 質屋は次の事項を見やすい位置に掲示しなければならない。
   1. 利子について
   2. 流質期限
   (以下省略)
  >23条 …(途中省略)6条…(途中省略)…に違反したものには、2円以上50円以下の罰金に処する。
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 …という規定が存在していた(なお、現在の「質屋営業法」にも同趣旨の規定(掲示義務とそれに対する違反に対する罰則)はあります)ものの、映画のどこを見てもそのような掲示は見当たらないのですよね…。

 もっとも質屋取締法は悪質な質屋を取り締まるための取締法規の側面が強く、それに違反してなされた行為(この例では、質権設定)でも、その違反の有無が契約を結ぶかどうかに大きく影響するのでない限り、法の違反(掲示義務違反)と契約の成立(質権は成立するか)は分けて考えるというのが当時の行政法の考え方であり、これもその例ですが、一応にも当時の法を無視するような描写はまずいです。

 ※ ただ、先に述べたように、このような特殊な行政法規の存在自体がマニアックだし、映画館でとられるこのような映画は、映画村等でとられているのであろうことから、職業ごとに掲示物をいちいち変えることは(映画村側のルール運用として)できない、と考えることもでき、減点幅はかなり微妙です。

 ※ なお、当時も今も(2023年時点での民法でも)、民法が定める純粋な「質権」「だけ」が実行されることは思うほど多くありません(個人間が行う質権設定がどれだけあるか微妙ですが、民法だけの範囲ではいわゆる「質流れ」は設定できません(強行規定)。百貨店などであるいわゆる「質流れ品セール」などは、特別法である質屋営業法で特別に認められている質流れが可能なことによります)。

 (減点0.3/主人公(父親)が取っている行為が若干怪しい)

 ※ なお、歴史上実在した人物ですので、個人攻撃に及ばない点は断っておきます。

 先に述べた通り、日本は明治維新を経て外国の脅威に触れたため、「早く諸外国においつかなければ」という思いから、フランス・ドイツの民法をもとに明治民法が作られています。この大半は現在でも維持されていますが、家族法(親族相続)だけは当時と異なっていました。まだ男女同権とは言えなかった時代であったし、当時は民法の範囲でも男女同権を明確に否定するような変な条文が多かったのも事実です。

 ただ、この主人公(ここでは、父親)のとった行為は映画の描写によると、「男女も関係なく学習する能力があるものに学習させる」といった現近代的な考え方(換言すれば、日本国憲法ができてからの新しい民法的な考え方)がかなりいきわたっていた(何かを制限する法律に対し、家族内といった狭い範囲において、個人の判断でそれを広げて認めることは(第三者を巻き込まない限り)何ら禁止されないし、当時は当然のように大黒柱に事実上すべての家族に関する最終決定権権があったといえる)と思える描写がかなり多い一方、「特定の宗教を否定する」「特定の学校に行くだの行かない」といった、それより上位の「大日本帝国憲法」でも(部分的に)保障されていた部分を否定するといった妙なこだわりがあり、ここは史実上そうだったのでそのように描写されているのだと思いますが、法律系資格持ち(特に憲法が科目に入っているもの)は、この部分はどこまで正しく描写されているのか…が若干微妙な部分があるのは確かです。

yukispica