「チグハグな作品。ハリーベイリーを起用することのバランス調整に失敗。」リトル・マーメイド Jinさんの映画レビュー(感想・評価)
チグハグな作品。ハリーベイリーを起用することのバランス調整に失敗。
アリエル役にハリーベイリーを起用したことが話題になっていますが、自分の中では「強い主張があって攻めているのか」「単純にセンスが無いのか」、どちらなのかと言うと前者だと思って映画を観に行きました。
ですが、思っていた以上に後者なんじゃないか、というのが鑑賞後の感想です。
まず、ハリーベイリーはあまり演技ができないと感じました。
アリエルは中盤で声を失うので、表情とボディーランゲージで王子にアプローチします。原作を知っている人は、アリエルがコロコロと表情の変わる子だと知っていると思います。
ところがハリーベイリーはずっと穏やかに微笑んでいる印象でした。これはアリエルのキャラ設定とも矛盾します。ストーリー上、アリエルは突飛な行動(突然いなくなったり、自信満々にフォークで髪をといたり)をすることがありますが、普段の演技が落ち着きすぎていて違和感があるのです。
意外だったのは、アリエルの歌(王子が覚えている「アアアーアアアー」のやつ)がハリーベイリーに全然似合っていないことでした。あの曲の穏やかなメロディはハリーベイリーの穏やかさとは別物(もっとマチュアな母性に近い?)で、メロディ後半に音を刻みながら音程を上がっていく高揚感は少女らしさも感じさせます。その矛盾と不安定さがアリエルだと思うのですが、ハリーベイリーは落ち着いた「いい子」でした。改めて、原作ではストーリーとアリエル像にマッチした曲として作られていると感じました。
そして一番衝撃だったのは終盤です。
アリエルの声で王子を誘惑するヴァネッサ(アースラの変身)をジェシカ・アレクサンダーが演じていますが、シンプルに可愛すぎる笑
ここで白人の(敢えて言いますが)全男性が虜になるようなモデルさんを持ってくるのはどうなのでしょう。視聴者に、ハリーベイリーのアリエルか、ジェシカ・アレクサンダーの偽アリエルか、どっちと結婚したいですか?と問いかけたわけです。しかもジェシカ・アレクサンダーは悪役の演技も素晴らしく、醜く崩れる表情にさえ変化のないハリーベイリーよりも心惹かれた人は多かったのではないでしょうか。完全に主役を食ってしまっています。
こういったバランス調整のチグハグさが、全編に散見されます。セバスチャンの見た目もリアル系でよかったのか(例えばアリエル視点だけアニメチックに、人間視点はリアルな蟹に、とかもできたと思います)、映像の明度や色調は適切だったのか、素晴らしい部分と気になる部分が混在していて、全体的に統一感の無さがありました。
監督のセンスが無いのか、統率しきれなかったのか、商業的な妥協を感じさせる作品でした。