「バーバリアン(野蛮人)は一体、誰のことなのか?」バーバリアン ガッキーさんの映画レビュー(感想・評価)
バーバリアン(野蛮人)は一体、誰のことなのか?
※ネタバレありのレビューなので注意です。
これは掘り出し物の良作ホラーでしたね。
この映画、非常に困ったものなのが…
仕事の面接を受けるためデトロイトにやって来た女性テスは、
ネット予約した宿泊先の民家に到着するが、
そこには既にキースという男性が滞在しており、
手違いでダブルブッキングされていたことが判明する。
嵐の中、他に行く当ても見つからないテスは、
どこか怪しげな男のキースと共に、一つ屋根の下のルールを決めて妥協しながら、
そこに宿泊することを決める。
ところが、トイレットペーパーを探しに地下室へ下りた彼女は、そこで謎の扉を発見して…
と言うストーリーなのですが、内容に差し障るのでこれ以上の説明ができないんですよね(笑)
とにかくこの映画、次から次へと二転三転の予想外の展開の連続なので、ネタバレは厳禁です。
さしずめ、ホラーのジェットコースタームービーです。
まるで、闇の世界の入口のような地下室の“ドア”の演出が素晴らしかったですね。
(それでは、ここからはネタバレ全開でいきます)
まずキャスティングに関してですが、なんといっても、キース役のビル・スカルスガルド。
あの大ヒット作の「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」シリーズのペニーワイズ役の印象が強烈だったため、しかもホラー映画で、どこか怪しげな男の役とくれば、
観ているこちらとしては、否が応でも警戒してしまう。
ところがどっこい、なんとキースは割と早々に、唐突に惨殺されてしまうという、まさかの退場。
この、キャスティングを巧みに生かしたフェイクも面白かったですね。
しかも謎のクリーチャーのような「彼女」まで出現し、パニックが頂点に達したところで、
映画は、なんと場面が転換し、
別の人物・セクハラ俳優のAJの視点から、ストーリーが展開されます。
このツイストのあるシナリオも見事ですね。
それから、テスとAJが合流するストーリー展開も鮮やかでしたし、
事の元凶である、地下の奥で寝たきりの老人の登場で、衝撃の真相が明かされます。
徹底してクズ人間だったAJに対して、
テスのことを我が子のように“身を挺して”守った「彼女」の行為は、母の愛そのものであり、
翻ってここで、「バーバリアン」というタイトルが効いてきます。
本当の「バーバリアン」(野蛮者)は誰だったのかという痛烈なメッセージ性。
加えて、先述の通りの、予想を超えた驚きの展開の連続、
物語の背景にある、人間や社会に対する鋭い風刺。
いちグロテスクホラー映画に収まらない、非常に完成度の高い一作だと思います。
監督は、これがデビュー作というのが驚きです。
なお、バイオレンス描写がR-15並に強烈なので、苦手な人は注意です。
特に“授乳”シーンは、ホラー映画屈指の悍ましさでしょう。