劇場公開日 2023年1月20日

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「悪魔の会議」ヒトラーのための虐殺会議 レントさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5悪魔の会議

2023年2月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

淡々と推し進められる会議。ヴィンゼーで行われたゲシュタポ主催、各役所のトップが集まり国の政策を具体的に実行するために事細かな議論が進む。
政策実現のための法解釈、担当部署の役割分担、かかる費用等々。はたから見ればごく普通の会議だ。だがその会議で審議されている内容は欧州に存在する全ユダヤ人問題解決のためである。

ユダヤ人問題とは何か。自分たちが勝手に敵とみなし迫害を始めたユダヤ人の処遇をどうするかということである。これは自分たちで雨を降らせておきながら雨が降ってきたと騒いでるようなもの。自分たちが作り出した問題をなんとか解決せねばと、それはまさにマッチポンプだ。

会議ではゲシュタポがいかに他の部署の人間を納得させ、自分たちがこの問題を解決するうえで主導権を握るかが淡々と描かれる。

そもそもこれは出来レースだ。彼らがユダヤ人問題解決を主導することは始めから決まっていたのだ。ナチス独裁体制の下、その意向に反するものなど無きに等しい。
こんな会議はそもそも意味をなさない。議席の過半数を占める政権与党が閣議決定で国の行く末を安易に決めてしまうどこぞの国のように。

この問題解決において、部署によっては異議申し立てもある。人としての問題、法的な問題。しかし結局それはユダヤ人のための異議申し立てではない。あくまでもドイツにとってどうなのか、現行法に照らしてどうなのかという異議申し立てでしかない。
法務担当者は自分の面子が保たれればいいだけである。彼が法と照らし合わせて断種処置が望ましいと淡々と述べるあたりはやはりユダヤ人を人間扱いしてないと見て取れる。
また、唯一の人格者とおもわれた人間も虐殺を行う側のドイツ人のメンタルケアさえできればと、あっさり納得してしまう。

ここにいる誰一人ユダヤ人を守ろうとする人間がいないことを思い知らされる。淡々と進む会議の中で着々とユダヤ人虐殺の手筈が進んでゆくだけなのである。
ユダヤ人にとってその運命を決定づける会議がただ流れ作業のように短時間でなされる様はその後彼らが同じく流れ作業のように処刑されてゆく様へと繋がる。本作の鑑賞後に「サウルの息子」を見ればその絶望感はよりひとしおだろう。

邦題にもあるように、会議出席者にヒトラーを否定するものは誰一人いない。彼らはヒトラーを信奉し、そのことにまったく疑問の余地もない。それが間違ってるとつゆほども思わない。これこそがカルトの恐ろしさと言える。そのカルトに支配されたドイツ人はユダヤ人にとっては悪魔でしかなかった。ともすれば人間は天使にも悪魔にもなれるということをまざまざと思い知らされる。

いまの現代日本でも亡くなった指導者をいまだに盲信し続けてる人間たちを見るにつけ、カルトの危険性は現代においても例外ではない。

かつてドイツは取り返しようもない罪を犯した。唯一の救いはその罪を真正面から受けとめ、逃げずに自身の罪と対峙し、けして同じ過ちを繰り返さないよう努力してる点だ。
自身の罪に向き合うどころか歴史を修正、美化して反省しないどこぞの国とは大きな違いである。

レント
こころさんのコメント
2023年4月20日

レントさん
そうですね。
亡くなられた事は心から残念だとは思っていますが、国民の半数近くが反対していた元安倍総理の国葬決定には、政治というものの恐ろしささえ感じました。
国税のばら撒きにも反対です。裕福な家庭への学費支援、必要だとはとても思えません。本当に必要としている人に、是非届けてあげて貰いたい。

こころ
りかさんのコメント
2023年4月19日

こんばんは♪
ご丁寧にコメントいただきましてありがとうございました😊ドイツの学校の歴史の授業で未来ある子供達に過去になぜ過ちに至ったか、考えさせたり教えたりされているのですか。すると、国民皆世界に名だたる過ちを犯した国である知識は得ますね。国を上げて取り組んでいるという事ですね。ただ、その子供達が成長してどんな考えを持つかは未知数ですね。なぜかと言いますと、広島での反原発教育を素直に受け止める者も反発する者もいるという事です。でも、仕方ないですね。教育が一番国民に浸透させやすいですから。日本には、そんな勇気ある作品は無いのですね。美化はあるけれど。南京、満州、朝鮮のことですか。最近観た『ラストエンペラー』や同時代の華流ドラマだと日本人は、同じ日本人でも腹立つぐらいに描かれています。
あまり作品を知らないのですが、『シンドラーのリスト』や『ワルキューレ』など、アメリカ製作が先行してやっとドイツ製作というそれも練りに練った作品ということでしょうか。
ご丁寧にありがとうございました

りか
りかさんのコメント
2023年4月19日

こんばんは♪
共感していただきましてありがとうございました😊
ドイツ製作の作品ですが、実際、ドイツ国民やヨーロッパ諸国の方々は、この作品を観てどう感じているのか、大変興味があります。何かご存知ございませんか?

りか
こころさんのコメント
2023年4月19日

レントさん
戦時下ではどの国でも、このようなスタイルでの軍事会議が行われているのでしょうね。恐ろしい事ですが。

こころ