「おかしなところだらけです」福田村事件 H・Hさんの映画レビュー(感想・評価)
おかしなところだらけです
関東大震災時の朝鮮人虐殺はよく知られていますが、間違われて日本人が殺されたというのはあまり知られてなく、それを取り上げた点は評価できます。しかし‥おかしな描写だらけでした。
村に帰ってきてにわか百姓になった井浦新。まっ白なクワを振るってました。画面を見てドッチラケです。小道具係さんが今しがた近くのホームセンターから買ってきたような。あの当時なら中古のうす汚れたクワのほうがそれっぽいでしょう。その真新しいクワがその場でボキッと折れてしまうのもヘン。
「腰を入れろ!」と言いながらお手本にクワを執る在郷軍人の水道橋博士、全然腰がはいってない。そりゃしょうがないですよ、ここは慣れた人に下半身だけ吹き替えでやってもらうべきところ。
絶対ペシャンコになっていそうな小屋が倒れてもなく、村の建物などもまったく乱れたところがない。大地震で村中ごちゃごちゃになった様子は絶対必要だった。
きわめつけは、地震直後から官憲が一般人に変装して、朝鮮人が暴動していると故意にデマを流しているというところ。関東大震災のドキュメント本によると、警察当局は電話もラジオも寸断されて情報が閉ざされた。当局としては治安が乱れるのを最大に恐れていた(そりゃ当然ですよね)。それが自分から治安を乱すようなことするはずがないでしょ。自分で自分の首を絞めるようなものですよ。実際そういうデマは確かに流れ、警察は現場を調査しデマであるとして街に平静を呼びかけたようです(横浜から東京にかけての辺り)。
この映画は、官憲は悪、民衆は善、男は悪、女は善といったステレオタイプで、この悲劇の大事な点が素通りされていると思います。大災害時の情報遮断から噂ばかりがまかりとおり、民衆が疑心暗鬼になり、冷静だった者も少しずつ狂わされていき、最終的悲劇に至る。そういう点を描いてほしかった。