「2023年・最大の問題作で話題作で傑作」福田村事件 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
2023年・最大の問題作で話題作で傑作
この映画が完成して私たちに届けられたことに感謝したいと思います。
この映画に携わった多くの映画人に敬意を表します。
見たくない真実であるし、知らんぷりを決め込みたい真実である。
関東大震災(1923年9月1日)の混乱と恐怖から、
千葉県福田村の村民により罪もない薬売りたち9名
福田村自警団によって(お腹の子を入れれば10名)が殺された事件を
克明に描いた実録的映画です。
重たい暗い内容ですが、大正の時代考証や衣装・美術・撮影などの
クオリティーが高い上に俳優たちの演技並びに意気込みも素晴らしく、
この映画を全員で成功させようとの意欲がまざまざと見えます。
(映画的な面白さの点でも申し分ありません)
薬売りの一団(リーダーは永山瑛太)は、讃岐(香川県)から
遠路を旅して置薬の販売のしながら旅をしていたが、
讃岐弁の訛りが強くて、福田村の人々には朝鮮語と判別が付かなかった
それもこの悲劇の一因ではなかったかとも言われています。
朝鮮人疑惑がかけられてからの後半40〜50分は
泣きながら観ていました。
涙もろいタチではないので、畳み掛ける演出が優れていたのでしょう。
永山瑛太が「朝鮮人なら殺してもいいんか?」と、
叫ぶシーン。
ここからは脚本と演出とせき立てるような太鼓の音に
私はすっかり理性を失ったのだと思います。
恐怖に駆られた集団(200人以上)が、竹槍で突き刺したり、
瑛太に至っては、出稼ぎに出た夫の安否を【朝鮮人の仕業】と
勝手に思い込んだ、赤子を背中に括り付けた若い女トミに
脳天を鎌(かま)でかち割られる。
女の無表情が本当に怖い。
自警団は逃げ惑う薬売りを追いかけ回し、鉄砲で撃ち殺し、
利根川に追い詰めて死体を沈めて流す。
そこからは、ただただ泣きながら観ていました。
クライマックスは針金で身体をグルグル撒きに縛られて、
手首をキツく結えられた薬屋の生き残りの5名が、
御詠歌なのか語りとも歌ともつかぬ言葉を唱和する。
これは日本人以外には出来ぬことだし、
流石に自警団も我にかえる、
そこに証明書が本物の知らせが警察から入る。
澤田夫妻が「ごめんね、ごめんね」と泣きながら縄を解く姿。
そして病院に運ばれた仲間のことを薬屋の少年が、
みんな名前がある。生まれてくる子はのぞむか?のぞみだった・・・
と言いながら、他の9名の名前を語るシーン。
永山瑛太の演技は見事だった。
被差別部落の民である薬屋たち。
穢多非人と朝鮮人の地位・・・どちらが上でどちらが下か?
知りませんが、忌み嫌われる被差別部落民の鬱屈した心情を
豊かに変わる表情ひとつで表現。
瑛太には華やかさと明るさがあった。
「朝鮮人なら殺してもいいんか‼️」が、
ハイライトである位に際立っていました。
実際にそんな火に油を注ぐ言葉を、部落とバレなように
用心に用心を重ねていた永山瑛太が言うのか?という
疑問も持ちます。
しかし演出としては優れていた。
船渡し人夫役の東出昌大。
小舟の中で田中麗奈を抱く赤銅色に焼けた背中。
労働で鍛えた男のフェロモンに目がクラクラ、
そして一番の嫌われ役・福田村自警団の分団長で惨劇を
誰よりも先導した男の狡さや嫌らしさを嬉々として熱演した
水道橋博士。
ややマゾっ気のある(?)水道橋博士にしか出来ない
嫌われ役でした。
主役の澤田(井浦新)は、朝鮮で日本軍の蛮行を目撃したPTSDで
不能になり妻(田中麗奈)を抱けない男。
その澤田が妻に「あなたはいつも見てるだけね!!」と
言われて遂に硬いの殻を破る。
しかし薬屋たちを朝鮮人と思い込み身分証の照合の僅かな
時間も待てずに凶行は行われてしまう。
時代は今から100年前、
ラジオ放送が始まったのは1925年(福田村事件の2年後)、
SNSもない時代、
関東大震災の情報は、東京から千葉へ戻ってきた人たちの口コミや、
千葉日々などや大手新聞社の記事から伝わったと思われる。
朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ・・・などの噂(デマ)は広がった。
翻って思うに、
東日本大震災(2011年)の際、アメリカは原発の半径80キロ圏内の
米国人に避難勧告を出した。
私の記憶では多くの外国人が先を急いで出国した。
これは今となっては大袈裟に思えるが、
(結果的は国外避難は必要なかったが、)
当時の日本国の混乱を思うとアメリカ政府の対応は
非常時には自国民を守る危機管理能力として適切な判断だったと思う。
私は米国人が続々と国外脱出する成田空港のニュース映像をみて、
日本の放射能汚染は政府の発表する放射線量数値が本当に正しいのか?
疑心暗鬼に駆られたものだ。
思えばあの時ほどNHK解説者の解説や各社コメンテーターの言葉を
真剣に聞いた経験はない。
それだけ、情報は命綱なのだ。
(それが偽情報だったら?ことは重大だ)
関東大震災では、穴を掘って死体を埋めていたとの記事を読んだ。
死体が山積みされ埋められる光景を目撃した人からの伝聞を聞けば、
その恐ろしさに畏れ慄くのが普通である。
3・11の記憶が頭にこびり付き【津波に放射能汚染のダブルパンチ】
忘れようにも忘れられない、多くの方々が亡くなった。
「千葉日々」と言う名前の新聞は堂々と報じた。
《朝鮮人による大暴動発生》
《朝鮮人の婦女暴行・飲料水に毒・略奪》の大文字見出し、
日本国民がそれを信じるのは当然のことだ。
そして更に恐ろしいのは震災当日と翌日に警察から
「朝鮮人に気をつけよ」
「夜襲がある」などと、官の側からの流言飛語を撒き散らしたのが、
村人の不安を煽った事実。
実際にこの機に乗じて朝鮮人と思想犯及び聾唖者が6000人も死亡した。
この映画が全て真実だとは言いません。
映画的演出もフィクションも含まれているでしょう。
骨のある日本映画を久しぶりに見せて頂きました。
「F ukushima50」(2020年)以来です。
「野火」「日本のいちばん長い日」「トラ・トラ・トラ」
日本人なら自分が生きている国を知るために、
一度は観ておいても損はないと思います。
コメントありがとうございました。映画を観てからしばらく時間が経ち、整理できたこともあったので、自分のコメント欄に追記しました。きっかけを与えていただき感謝です。
琥珀糖さん、今年もよろしくお願いします。まだ琥珀糖さんのレビューを読み切れてなくてすみません。本作は見ごたえがありましたよね。東出さんと田中さんが素敵でした。
残った人たちが縛られて、水平社宣言を唱えている場面は、私には、村人はまだ我に返ってはいなくて「何だこいつら、」といった感じで困惑しているように見えました。確認が取れた知らせが来て初めて動揺が走ったように見え、人々の狂気が恐ろしかったです。
コメントありがとうございます。
自分も同じで、今作は社会派的な題材を面白く作れていた事が収穫だったと思います。
森監督と脚本陣が揉めてるらしいのも面白い。東出くんは最早、元奥さんとは段違いの役者。見たかワタナベ一族という気持ちです、ヤッちまった事は消せないんですけどね。
私も札幌生まれなんですよ。
小5の時に横浜に来ましたが、東京・横浜も住民は地方出身者ばかりで部落問題なんて存在しない。
だから、関西で生まれ育った同僚や友人達と被差別部落に対する認識の温度差は物凄く感じたものです。だから仰る事、よくわかりますよ〜。
22歳から10年間、日本中飛び回って被差別部落や在日問題について関係者・当事者の方々から直接お話しを聞く機会を数多くもちましたので、ある程度の見識を身につけるに至りましたが、理解の深さ、広さの差についても色々と考えさせられました。
だから、私はこのような社会派映画のレビューでは多くを語らない事にしています。
それでも伝わる人には伝わるし、伝わらない人には100倍の言葉を尽くしてみても伝わらない。
その溝を埋めるものは「経験」しかないですものね。
そして、わからないことは無理にわかろうとしなくていい。
「経験」の機会が巡ってくるまでわからないまま寝かせておけばいい。
そんな風に考える今日この頃なのでありました。
共感ありがとうございます。
4ヶ月近くこの作品への反響を見てきましたが性愛描写と女性記者が不評で、最近は擁護派側がメインキャストという不満も散見されました。思想的な意見も多く、色々考えさせられるという点では今年一番だったと思います。興行収入どの位迄行ったんですかね、ダラダラしている間に二度目を見逃しました。
感じました。本作、ノンフィクションではありませんが、事実に基づき作られ、最後あたりのテロップにもその後のこととして流されていますので、無関係とも、切り離して考えるのもわかりません。
子孫に害が及ぶのは間違っていますが、その当時としての在り方を考える時、関係あると思えます。
ま、人それぞれの受け止め方になるのか⁉️どうかと。
コメントしていただきましてありがとうございました😊
聞きかじりてすが、被害者遺族の方も映画化には反対というか、そっとしておいて欲しかったようです。被差別部落ということが公になるのを懸念してのことかと。
慰霊碑を訪ねた方のレビューを拝読しましたが、なかなかわかりにくい小さなお寺の片隅にあるようです。だいぶ探して見つけたとのこと。自分の近辺で見る慰霊碑とはだいぶ小規模かも、と
似たような事象があったようで、
地震に乗じて、気に入らない人々をひと思いに始末しようという狙いでもあったのかと思うほどです。だから、殺人であるのにもかかわらず、恩赦で無罪という考えられない処分になったそうです。
最近の恩赦に該当するのは、交通違反のキップ切られたりした人対象程度らしいですが。
こんにちは♪、
共感していただきましてありがとうございました😊
琥珀糖さん、泣かれたのですか⁉️
私は薄情人でしょうか。本レビューの村人たちの殺戮シーンの描写、映画の通りですが、文にするとオドロオドロしてエグくてまた再びショックを受けましたよ。泣くより恐ろしさの方かと。他のレビュアーの方に教えていただきましたが、関東地方各地で
生き残りのメンバーが唱和したのは「水平社宣言」です。
(私のレビュータイトルも、その一節です。)
良かったら是非「水平社宣言」で検索なさってみて下さいね^ ^