劇場公開日 2023年9月1日

  • 予告編を見る

「朝鮮人なら殺してもええんか?!」福田村事件 たあちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5朝鮮人なら殺してもええんか?!

2023年9月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

興奮

知的

今年の邦画ベスト1はこれで決まりだろう。関東大震災からきっかり100年に狙いを定めての公開、折しも政府が「朝鮮人虐殺の記録は見当たらない」としらばっくれる中でかつての軍国日本のみならずまさに今の「新たな戦前」に向いつつある日本を痛烈に糾弾する社会派エンタテイメントの傑作である。「記録が無い」は全く大ウソで震災の2か月後に神奈川県が「朝鮮人を145人殺しました」と内務省に詳細に報告した文章も残っている(東京新聞9/5)らしく、そもそも内務省が「朝鮮人は各地に放火し、不逞の目的を遂行せんとし、現に東京市内に於て爆弾を所持し、石油を注ぎて放火するものあり・・各地に於て充分周密なる視察を加へ鮮人の行動に対しては厳密なる取締を加えられたし(横浜市史)」と地方長官に打電し警察が率先してこのデマを流布したとされる。今作の切り口が鋭いのは、数千人にのぼるといわれる朝鮮人虐殺を正面から描くのではなく千葉県福田村での行商一行9人が「朝鮮人と間違われて殺された」という事件にスポットを当てた点であろう。真っ先に殺される行商のリーダー永山瑛太が言うように「朝鮮人なら殺してもええんか?」という叫びがこの映画の全てである。讃岐から来た行商一行の言葉がおかしいので「朝鮮人だろう」と疑われ、村の警官が行商人が示した「鑑札」を調べるからそれまで手を出してはならんと言う。つまり間違って日本人を殺してしまってはまずいけれども、朝鮮人なら殺してOKだというのだ。行商一行は香川県の被差別部落の出身であったことから公に告発をせず、事件は80年近く闇に埋もれていた。ずっとこの件を世に出そうと企画していた森達也と若松プロの荒井晴彦がタッグを組んだ奇跡的作品。撮影の桑原正が素晴らしく森達也のハンディカメラでは到底描けなかったであろう一級の名作が生まれた。

たあちゃん