「心の自由に従って、哀しく、誇り高く、美しく、咲き乱れたベルサイユのばらたち」ベルサイユのばら 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
心の自由に従って、哀しく、誇り高く、美しく、咲き乱れたベルサイユのばらたち
原作は池田理代子の名作漫画。
それを基にしたTVアニメや宝塚による舞台も有名。
キャラも絶大な人気。特にオスカルは、アニメキャラとしては『あしたのジョー』の力石に続いて2人目となる葬儀も行われたほど。
一世を風靡した名作が、令和の時代に再び幕を開ける…。
あまりにも有名な作品やキャラは知っているが、作品をしかと見るのは初めて。
さあ、フランス革命時を生きる人々の激動の人生と華麗なる愛の世界へ。
国内情勢揺れる18世紀後期のフランス。
王位継承者・ルイ16世の妃として隣国オーストリアから嫁いできたマリー・アントワネット。時に14歳、両国の政治的同盟の為の政略結婚だった。
マリーは近衛士官のオスカルの美しさに目を奪われる。が、オスカルは、将軍であった父から“跡継ぎ”として教育を受けた男装の麗人であった。
マリーはオスカルに全幅の信頼を寄せ、オスカルも親衛隊長として忠誠を尽くす。
ルイ15世が崩御し、ルイ16世が即位。マリーも王妃となる。そんなある時、スウェーデンから伯爵フェルゼンが訪問。
オスカルはフェルゼンに想いを。が、フェルゼンはマリーを。マリーも王妃という身でありながらフェルゼンに。
許されぬ想いを抱くのはもう一人。オスカルの従者アンドレ。
そんな彼らを、時代の荒波が押し寄せる…。
原作は10巻から成る大長編。
それを2時間の尺にまとめるのは無理。ダイジェスト的なのは否めない。
原作漫画やアニメ、昔からのファンには物足りないかもしれない。
が、要所要所のハイライトや見せ場は設けられ、私のような初見者や新しい世代が見る為の“入門編”としては最適。その為にも作られたのだろう。
前半は4人の関係や人間模様が華麗に展開。
「パンが無ければお菓子を食べればいい」という発言で困窮の人民を尻目に贅沢の限りを尽くした事で知られるマリー・アントワネット。
若くして嫁ぎ、宮廷内の周囲からの視線や世継ぎの出産のプレッシャーで孤独を感じていたマリー。それが贅沢三昧の嗜みへ。オスカルは危惧する。
そんな時出会ったフェルゼン。勿論国王を愛してはいるが、心から惹かれるものは無かった。
フェルゼンに対して初めての恋。自分の自由な気持ち。
フェルゼンもマリーを愛す。結ばれぬ許されぬ恋である事は承知。フェルゼンはマリーを愛する為、独身を貫く。
オスカルもまたフェルゼンに結ばれぬ許されぬ想いを抱く。彼の想いはマリーに向けられ、王妃の想いを近衛隊長であるオスカルが想いを抱く事は出来ない。
アニメ史上に残る名キャラと言っていいオスカル。
女性としての容姿端麗、美しさ。男性として育てられ、誇り高さや勇ましさ。聡明でもあり、儚さも滲ませる。女性から見ても男性から見ても魅力的。その魅力に納得。田島令子の声優としての当たり役だが、今の時代なら美しさと強さを併せ持った沢城みゆきはベストなキャスティング。
美しきキャラたちが織り成す人間関係の中、身も心も一番のイケメンはアンドレと言えよう。
オスカルの乳母の孫。オスカルの従者だが、オスカルとは幼馴染みや兄弟姉妹のように育つ。
常にオスカルの傍に。オスカルへ、彼もまた結ばれぬ許されぬ想いを抱いている。
ある時暴徒からオスカルを守り、片目を失明。やがてもう片方の目も視力が…。
現世でオスカルと結ばれぬ事に苦しみ、オスカルを連れ立って来世へ旅立とうと…。それほどの深い愛。
アンドレの想いを知らないでいたオスカルだったが、やがてその想いに気付く。彼の苦しみが私の苦しみ、彼の喜びが私の喜び。私のアンドレ!
ある運命の前夜、二人は遂に結ばれる。将来も誓い合うが…。
4人各々が持つ哀しみや想い。
後半になるにつれ、オスカルとアンドレのラブストーリー。前半比重の大きかったマリーとフェルゼンは蚊帳の外…。
ミュージカル調の演出も賛否分かれているよう。が、宝塚歌劇にもなっている訳だし、これはこれで。
登場人物たちが歌い出すのは後半の一曲ぐらいで、オリジナル楽曲の数々が登場人物たちの心情や作品世界を彩る。
流麗な映像美も相まって、たっぷり堪能。
が、2時間ずっとミュージカル調演出×4人の織り成すラブストーリーだけだったら飽きが来てたかもしれない。
後半は寧ろ、史実絡むドラマに胸熱くさせる。
国内情勢はさらに不安定に。
人民たちの暮らしは困窮と貧困のどん底。日々の暮らしも、食べるものも、明日をも知れぬ。
その不満や憤りは王室へ。王室は衛兵隊で鎮圧。
各地で着いた火種は遂に、大きな炎に。フランス革命の始まり。
オスカルは人民やフランスをもっとよく知ろうと、近衛隊を辞し衛兵隊へ移る事を願い出る。マリーは当初反対するが、オスカルの意志は揺るがない。それは二人の決別も意味していた…。
オスカルが配属された隊は、貴族出身で女の隊長に反発。
兵は皆、人民出身。兵たちもその家族も苦しんでいた。
隊内で起きた不祥事をきっかけに、互いの信頼が築かれていく。オスカルは隊に、“心の自由”を説く。
人民と王族が遂に衝突。立ち上がる人民に、王族は武力で制圧。
人民を守る筈の軍が人民に銃や砲を向ける。無慈悲に攻撃を…。
フランスは誰のものか…? 権力を貪る一部の王族や貴族や軍のものか…? それとも人民か…?
オスカルも決断迫られる。権力の犬として付くか、人民と共に闘うか。
心の自由に従って。迷いは無かった。
アンドレ、そして隊と共に。
自由、平等、友愛。
人民と愛するフランスの為に。
だが、その闘いの中で…。
どの国にも壮絶な歴史がある。
日本なら戦前~戦後の大転換、韓国なら民主化。
自国や隣国ならまだしも、歴史的に有名でも18世紀のフランスの革命などなかなか知り得ない。
それをただ学校の授業で習っても興味持てない。実際私も習った筈なのに、ほとんど覚えていない。
しかし、こうやってエンタメとして見せる事で改めてよく知れる。
一見は美しきキャラたちが織り成す恋愛模様だが、その根底にはフランスの歴史をしっかり昇華。
池田理代子女史の手腕と作品が今尚愛され続ける理由が分かった。TVアニメの方も見てみたくなる。
ノンフィクションの歴史を背景に、フィクションの物語やオスカルなど架空のキャラも。
が、モデルは居た筈だ。名も無き英雄たち。
本当に誇り高き英雄、人民たち。
彼らを忘れない。
心の自由に従って。哀しく、勇ましく、美しく。
咲き乱れたベルサイユのばらたちよ。
昔のTVアニメ版は原作をかなり改変しております。
キャラの性格も思考も話のテーマも……。
…なので、この映画の元になったストーリー&池田先生が伝えたかった思い等をお知りになりたいのであれば、是非原作漫画の方をお読みください。
よろしくお願いします!
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