劇場公開日 2025年1月31日

「ミリしら層にこそ見てほしい、令和の憧れとなるヒロイン」ベルサイユのばら EBNさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ミリしら層にこそ見てほしい、令和の憧れとなるヒロイン

2025年3月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

幸せ

かつて‶ベルばらブーム〟という社会現象にまでなった少女漫画の映画化。
三十年ファンをしている私にとっても大変嬉しいことだったが、今回の映画はむしろ新規層すなわちミリしら層、そして若い人たちにお勧めしたい内容だと思った。

まず2時間弱という尺。
これは賛否両論あるものの、これはミリしら層でも気負わず見ることのできる長さだ。原作の少女漫画が9巻あることを考えると短いと言えるが、かといって他の批評などでよく言われている三部作などにしたら、ミリしら層は尻込みしただろう。そもそも三部作というのは、鬼滅やコナンなどの巨大コンテンツ、あるいは現在進行形で漫画連載やテレビ放映している作品でないと途中で観客が離れてしまうため、滅多に出来るものではない。

そして内容。
原作を大きく改変・省略しているものの、原作者が50年前に描きたかったと述べる、
・性差の枠にとらわれず、自分の信念に従って生きる自立したヒロイン
・身分や古い慣習し縛られた体制を打ち砕く「自由」の追求
などの根本的なテーマはぶれておらず、なおかつ各エピソードを矛盾なく繋げているため、原作を知らなければむしろこういう話だと思って楽しめるだろう。
原作を知っているファンからすれば「あのエピソードもない、このキャラもいない」と愚痴も言いたくなるだろうが、ミリしら層のレビューを見る限り「ちょっと駆け足かな」ぐらいの感覚に留まってるようだ。そこから原作を読んでみようという声も見られるため、古い少女漫画だからというハードル(これが意外と高い)を越えるための入門編になっているとも言える。
ミュージカル部分についても賛否両論あるが、ミリしら層にいきなり大量の情報を押し付けても疲れさせるだけなので、物語の雰囲気を楽しませる、息抜きさせる、という意味では悪くない選択だったと思う(ミュージカルが苦手、あの曲調が苦手な人には申し訳ないが)。
ちなみに私は原作ファンだが、上記のテーマをしっかり描いてくれたことの感動の方が大きく、改変・省略自体は「ああ、そこはそうまとめたのか。上手くやったな」という風に許容することができた。

そしてミリしら層、若い人たちにお勧めしたい一番の理由は、主役の一人、オスカルの描写だ。
先にも述べたように、原作の少女漫画の通りの『性差の枠にとらわれず、自分の信念に従って生きる自立したヒロイン』になっているのである。
この映画のオスカルは、男社会の中で堂々と自分の力を発揮し、女性として真実の愛も手に入れ、後悔のない人生を全うする。
1970年代に作られたテレビアニメ版では、当時の『男は仕事、女は家庭』『女は男の庇護下にいるのが幸せ』という社会通念を反映してか、『男として生きることを強いられた可哀想なヒロイン』『そんな可哀想な境遇で懸命に生きるヒロイン』として描かれていた節があるが(それ自体は、その時代なりの定番のヒロイン像というものがあっただろうからいいとして)、この令和の時代には、原作通りの、すなわちこの劇場版のようなヒロインの方が合っていると思う。
そして、昭和よりは女性が活躍しやすくなり、それでいてまだまだ課題が多い令和の世の中では、こちらのオスカルの方が若い女性たちの憧れとなりうるのではないか。

最後に挙げたいのは、ラストの演出である。
大河ドラマ同様、歴史ものである以上、この映画ではラストに登場人物の死が描かれるが、吉村愛監督の采配により救いのある演出となっている。
昨今は悲劇への耐性が昔より薄れつつあるせいか鬱展開の多い作品はヒットしにくく(長期間かけて静かなブームになることはあっても)、観客たちもハッピーエンドを求める傾向にある。
原作がある以上ラストを変えるわけにはいかないが、決して見た後に憂鬱になるような演出ではないので、気負わずに見に行ってほしい。

ここまでミリしら層にお勧めしたい理由を述べてきたが、それ以外で注目すべき点は細部の作り込みの綿密さだ。
ベルサイユ宮殿や貴族の邸宅も丁寧かつ忠実に描いているし、壁にかけられているレリーフや絵画なども実在のものが数多く見られる。
また終盤のテュイルリー広場やバスティーユ牢獄の戦闘も、当時の文化に忠実だ。
特にテュイルリー広場の戦闘では、当時実際に行われていた戦列歩兵(兵士が数列並び、肉の壁状態で敵と対峙する陣形)をしっかり描いている。どこかの批評に『棒立ち』と評しているところがあったが(そして私も最初はそう思ったのだが)、本当のところはリアリティの追求の結果なのだ。
その部分以外でも、多くの兵士、市民が大勢動いて激しく戦闘を行っている様子には圧巻される。ブルーレイやDVDの発売を待つのもいいが、この迫力はぜひ映画館で感じてもらいたいところだ。

公開直後は、オスカルをトランスジェンダーにしたなどというデマツイートや、原作の少女漫画とテレビアニメの内容を混同し「原作と違う」と述べる酷評によって二の足を踏んだ人もいるだろうが、まだ公開している映画館もあるのでぜひ足を運んでほしい。またミニシアターでの公開もありうるので、近場の映画館に要望を出してみてはどうだろうか。

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