「超ハイクオリティな2時間ベルばら」ベルサイユのばら 映画読みさんの映画レビュー(感想・評価)
超ハイクオリティな2時間ベルばら
原作とTVアニメ版は全部観ています。どちらもそれぞれに好きです。
そして劇場版、とても面白かったです。良かったです。
原作版、TVアニメ版、宝塚版とそれぞれに支点の異なる名作ですが、アントワネットの輿入れ&オスカルの登場~フランス革命という原作なら10冊・テレビアニメ版なら40話という尺を2時間にするのはかなりの取捨選択が求められます。
そこで本作は
・人物劇シーンはオスカル×アントワネット×フェルゼン×アンドレ +少しジェローデルとアラン に絞ってちゃんとやる
・世界観や世情の動きは、随所で豪華ミュージックビデオ風の映像&歌を多用して圧倒しながらかっ飛ばす
という手法が取られています。
事前に友人から「ミュージカルっぽい」と聞いてかなり不安でしたが、各所で挿入されるMV風のところが動画も歌も素晴らしいクオリティで、体験としてハマり度がありました。映画館で観てよかったです。
上映時間は113分ですが、美麗な映像と興味を引く展開で体感時間はもっと短く感じます。
オスカル役の沢代みゆきさん、アントワネット役で嫁いだばかりの少女~王太子妃~王妃期で声を見事に使い分けていく平野綾さんの声演はものすごかったです。
描ける尺の都合でどうしても全キャラ薄味に寄りますが、それでも各人の思考言動が破綻しないように、小さな台詞の改変等で頑張って繋がれていたと思います。過去作を観ていないとまったくわからない…というシーンは1つしかありませんでした。その1つは原作版にのみ存在する話ですが、原作版でも「急にどうした!?!?」となるベルばら1の謎のシーンだと思う箇所なので、原作を知っているから意味が取れるというものもありません。この全体的に上手な取捨選択の中で外されなかったのは、原作者さんの思い入れのあるシーンなのかなと思いました。
いわゆる最古参のベルばらファンはキャラクターへの想いを50年~45年以上育ててきているので、デュ・パリーが、ポリニャックが、ロザリーが、アントワネットの最期が……等で評価を下げてしまっているのかもしれません。それらをちゃんと取り上げると、2時間映画としては全体の解像度が上がってしまって破綻してしまいます(人物画を描くときに、一箇所だけ毛穴を描けば顔全体の毛穴を描かないと不自然になる、という話です)。
自分も「知ってる者としては」オスカルとロザリーとの暮らしやロザリーとアントワネットとの最後の絡みはあって欲しい派ですが、本作で初めてベルばらを観る人は、それらが無い本作でも最後まで違和感無くストーリーを追える作りになっていると思います。
自分(男性です)の周囲で一番有名なのはアニメ版ですが、アニメ版ではかなり感覚的な戦いになってしまっていたバスチーユ戦が、原作寄りというか原作以上に「戦術指揮官としても強いオスカル」で締められていたのが特に嬉しかったです。女としての幸せの大綱を諦めたときに「軍神マルスの子として生きよう」と誓ったエピソードに説得力が出ていました。アンドレやオスカルの結末も、やや唐突だったアニメ版寄りではなく、気品があり納得感のあることになっています。総じて、終盤の展開は各過去作のいいとこ取り&ブラッシュアップが果たされていると思います。
数年前にスーパーマリオの映画がありましたが、あれのように「わずかに知っている人が観に行っても、エッセンスをしっかり体感しながら感動できる」系の良作リメイクに思いました。ベルばらを言葉としては知っていても中身はよく知らない……という人に観に行ってほしいです。原作やアニメ版の予習は必要ありません。
教科書の重要語句レベルの世界史知識があると、より感じ入る演出が増えると思います。ルソーの社会契約論、テニスコートの誓い、アンシャン・レジーム(懐かしき、すべての古きくびき…)、人権宣言、ヴァレンヌ逃亡事件…
※追記
友人を連れて、映画館で2回目を見ました。
体感時間は2回目の方がさらに短かったです。
2回目はMV時に歌の歌詞にも集中できたので、より感じ入ってしまったかも。
何度見てもいい、どこに出しても恥ずかしくない、以降永久に日本のクリエイティブの誇りとしてお出し出来る作品だと思ったので、星4.5から5に変更します。
作ってくださったすべての方々、上映してくれた映画館、ありがとうございます。
お返事いただきありがとう御座います。
わたしは原作未読、TVアニメもほぼ未見で粗筋を知っている程度ですが、アンドレの心情は充分に理解できてサスペンスを感じたシーンでした。
また、オスカルのアンドレへの愛が決定的に深まる、欠かせないシーンだったと思います!
>おけんさん
コメントありがとうございます。
素晴らしかったですよね。
私の、1点だけ原作知らない人には「何が起こったのか???」になるかなと思った箇所は、アンドレの毒杯→パリーンです。原作漫画ではアンドレの心の中が語られていましたが(お好きでしたら申し訳ありませんが、その心の中を聞いても突飛な行動に思います)、劇場版ではさらっと包み紙が2つ映るだけなので、すでに目を患っていることもあり「薬かな?」と思われてしまうのでは…と思いました。ワインで薬は飲まないのは現代の常識ですが、18世紀という未知領域でもあるためちょっと解釈が絞りづらいかなと。
実に同感です。
一緒に観に行ったTVアニメ版の大ファンで原作も繰り返し読んでいるという方も、いろいろと入れてほしかった要素はあれど、入り口として納得と言われていましたし、わたしは入り口とかでもなく独立した作品として完成度の高いものだと感じました。
一点だけの唐突なシーンというのはどこかわかりませんでした。