「類まれなる人生のカケラを映し出した奇跡的なドキュメンタリー」画家と泥棒 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
類まれなる人生のカケラを映し出した奇跡的なドキュメンタリー
もともと配信で観ていたのだが、映画館のスクリーンで観ることで得られるものが非常に大きかった。特に表情の機微と、画家であるバルボラさんが描く絵のディティールが、この映画の説得力をさらに増していた。
絵を盗まれた画家と、盗んだ泥棒が出会い、画家が泥棒の肖像画を描こうとする、という導入からして十分に面白いドキュメンタリーだが、ある瞬間を転換点に、類まれなる人間ドラマへとなだれ込んでいく。こんなのはフェイクだ演技だというひともいて、確かにフィクション的な手法も駆使されている。が、個人的には、あんな表情を演技でできるひとがいますか?と思ってしまうし、背景を調べたり当事者である出演者に話を聞いた限り、フェイクだと認定するよな材料は出てこなかった。
まあでも、1000歩譲ってフェイクだったとしても「こんなに面白い映画あります?」なので、考えた人の天才っぷりを賞賛する気になる。そしてそもそも、あらゆる映像作品は切り取りと編集でできているという点で一種のフェイクだし、それは劇中の絵画も含めて「あらゆる表現は複雑に視点が絡み合ってできている」という命題にも触れていて、二重三重に考えさせられる。
そしてドキュメンタリーとして、被写体がこれほどまでに自分たちと人生をさらけ出していることは、監督も含めた奇跡的な出会いと信頼関係がないと成り立たない。ほんとこの映画に参加してくれて、そしてわれわれ観客に人生の一部をシェアしてくれて、心からありがとうございますという気持ちです。
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