「80年代ノスタルジアと現代まで続いている社会問題と。」エンパイア・オブ・ライト ごーるどとまとさんの映画レビュー(感想・評価)
80年代ノスタルジアと現代まで続いている社会問題と。
第95回アカデミー賞撮影賞(ロジャー・ディーキンス)ノミネート作品。
ロジャー・ディーキンスと言えば「1917 命をかけた伝令」で見事2回目のオスカーを受賞している撮影監督さん。
映像が本当に美しいので是非今作でもオスカーを獲ってほしいです!
いやいや、まず、こんな素晴らしい作品なのに撮影賞の1部門しかノミネートされてないって全く解せないんですけど!作品賞を始めとする主要部門にも絡むべき映画だと思うのですが。
(下書きは授賞式前に作成。アカデミー賞撮影賞は「西部戦線異状なし」のジェームス・フレンドでしたね)
監督のサム・メンデスは「アメリカン・ビューティー」で彗星のごとく現れたときは新進気鋭の若手監督さんだったのに今やすっかり大御所ですね。
正直、そんなに好みじゃない作品もあるのですが、今作はドンピシャでした。
映画と映画館への愛情がギュッと詰まっているけど「バビロン」のような変則技・大技ではなくてストレートな表現なのでとてもわかりやすくて。
本当に、なぜ作品賞や監督賞にノミネートされなかったのか謎過ぎます!!
舞台は1980年代、イギリスのとある町の映画館“エンパイア劇場”。そこでは「ブルース・ブラザーズ」と「オール・ザット・ジャズ」がかかっています。
封切り館ではなくてちょっと前の作品をかけている二番館なのかな?
そのラインナップを見て当時が甦ってきました。
そして懐かしい趣きのエンパイア劇場を見て、地元大阪の“あの頃”の映画館に思いを馳せていました。
まだシネコンの無い時代、あちこちに点在していた映画館にはそれぞれ独自のカラーがあり劇場内は外とは全く別の世界。
自由席で入れ替えも無かったなぁ。
映写室からスクリーンまでの光の道の中を舞っている埃に見とれたり、フイルム交換の信号が出たら心の中で(1、2、3)とカウントしたり。
白いスクリーンにはえんじ色のカーテンがかかっていて、上映中は開いているけどエンドロールが始まるやいなやカーテンが左右から閉まってきて、クレジットがカーテン上に映されたり廊下で待っていた次回鑑賞の人たちがシアター内に流れ込んできたり。
混雑時は階段状の通路に座って鑑賞したり(当時の消防法はどうだったんだろうw)。
今とはまるで違う風景がそこにはありましたね。
監督とはほぼ同世代なので監督の青春時代が私の“あの頃”と重なりました。
そしてこの作品にはたしかに“あの頃”の匂いがありました。
上記2作以外にも「炎のランナー」など当時の映画の名前がたくさん登場しますので、S・メンデス世代は郷愁に駆られることでしょう。
映画作品だけではなく、サッチャー政権下のイギリス社会問題など当時の世相も描いていますが、人種差別やセクハラ問題など決して昔話にはなっていないのでかなりグサグサきます。
主演のオリヴィア・コールマンが素晴らしかったです。
そして映画館で働く人たちはそれぞれワケありだけど本当に優しい。
あ、ゲスな支配人コリン・ファースを除いて、ですね。
キングスマンのマナーはどこ行ったんだ!って程に最低男でした(役です)。
主人公がラストにひとりで観る映画が「チャンス」っていうのも、ね。
それぞれのこれからの人生が幸せに満ちていますように。
好きです、こういうの。