「映画や思いが人の心をやさしく照らす。メンデス流の映画館賛歌であり、人間賛歌。」エンパイア・オブ・ライト 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
映画や思いが人の心をやさしく照らす。メンデス流の映画館賛歌であり、人間賛歌。
先日、英国マーゲイトにバンクシーの新たなアートが出現して話題となったが、本作の舞台”エンパイア劇場”が佇むのはそこから歩いてすぐのところだ。冒頭、ピアノの調べに乗せて場内の灯りがポツリと点灯する。この優しく柔らかなノスタルジーに早くも胸を掴まれ、涙を堪えきれなくなる自分がいる。なるほど、これはメンデス流の映画館賛歌であり、80年代への追想なのだろう。『炎のランナー』プレミアに向けて活気づく中、ここで働くヒラリーは傷だらけの心を抱えて崩れ落ちそうになり、不意に出会った若者が彼女を明るい方へ導くかと思えば、一方で不況期のヘイトが彼に襲い掛かる。母子ほど歳の離れた二人の支え合う姿がなんと味わい深いことか。テニスンの中でも特に人気の高い大晦日の定番詩"Ring Out, Wild Bells"やオーデンの"Death's Echo"、ラーキンの"The Trees"が物語に高揚と彩りを添えている。
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