劇場公開日 2023年2月23日

「スクリーンに映る光のその先へ」エンパイア・オブ・ライト ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0スクリーンに映る光のその先へ

2023年2月25日
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ため息が出るほどの映画的な映像美とはこのことか。映画館に、劇場に灯りが点る冒頭のシーンで私はすっかり本作の世界に魅了されてしまった。

「理想と現実」これこそがサム·メンデスが一貫して描いているテーマではないだろうか。映画館で映画を観るという行為は暗闇に照らされた光を見つめるというということであり、その光に観客は希望を見出だすことができる。しかし、本作では光を放つ映写機の後ろにも焦点を当てる。

本作で映し出される乾いた世界は理想とは異なる厳しいものがある。差別や偏見、理不尽な世界に身を置きながらも自分が壊れないように擦り合わせていかなければならない。しかし、そんな現実だからこそ、私たちは暗闇に光を求めるのではないだろうか。映画を観る2時間、3時間という限られた時間でも私たちは別の世界に入り込み、現実を見つめ直す。ヒラリーがスクリーンに身を委ねる後半のワンシーンは正に本作のハイライトであろう。

1つの作品に複数のテーマを詰めすぎた印象もあるが、映画が私たちの人生を豊かにするのにいかに大きな役割を担っているのかを本作は静かに物語る。ある人にとっては凡作と思える映画でも、ある人にとっては人生を変えることもある。暗闇に映る光に満足するか、スクリーンの先に光を見出だすか?

美しいラストシーンも見事だが、映写技師を演じるトビー·ジョーンズの存在感が実に素晴らしい。理想と現実を否定も肯定もせず、それでいて、物語を前に進めるサム·メンデスの手腕は本作でも健在だ。

Ao-aO