「家父長制的男性性の悲劇」The Son 息子 Pocarisさんの映画レビュー(感想・評価)
家父長制的男性性の悲劇
テーマは明確で、「男らしさ」の世代を超えた呪縛のもたらす悲劇です。
それをジェンダー論的な言葉をまったく出さずに描き切っていました。
主人公とその父、おそらくさらにその父、その父、その父……から続いている「男ならばこうあれ」という男性性の皺寄せが若い息子にのしかかっていくという物語です。
ですから、息子の苦悩を息子自身はどうすることもできませんし、明確に言葉で表現することもできません。それはそうです。彼の内部にあるように見える問題は、実は社会が抱えている問題ですから。
父親も自分がそれに囚われていることに真の意味では気づいていないので(たぶん最後まで)、息子への対応をほとんど全部間違えています。もう、ことごとく、「それやっちゃダメ」ということばかり息子にしています。
それはこの父子関係だけの話ではなく、今でも多くの国の社会が囚われているものです。
結末からすると、監督はそれが変化していくような希望を今は見出せていないのでしょうね。
「愛では救えない」
この場合はまったくその通りでしょう。男性が「男らしさ」から解放されることしかありません。しかし、アンソニー・ホプキンスの演じる主人公の父親のような人がそこに思い至れるか?
これはかなり絶望的でしょう。
長い時間がかかりますが、世代が変わることで改善に向かうことを祈るばかりです。
もう一人の息子が成長する時に間に合うどうか?そうしたことも考えたせる巧みなドラマ作りです。
役者さんがみんな素晴らしい。
なお、ヒュー・ジャックマンの演じる主人公の二人目の妻や子育てへの関わり方の細部をよくみてほしいですね。実はすごく古臭い、つまりヤバい相当に人なのでは……というのがわかると思います。
たとえば「小児科」という語が出ているのにスルーするシーンで私はゾッとしました。