「相容れない価値観の衝突」イニシェリン島の精霊 moroさんの映画レビュー(感想・評価)
相容れない価値観の衝突
どうしてこんなに切なく悲しくなるんだろうと、何度も涙が溢れました。
退屈な日常を愛し、コルムと過ごす時間をもっとも大切にしていたパードリック。
人生の残り時間のすべてを音楽にかけると、自分の生き方を決意したコルム。
互いに嫌いになったわけではないし、慕いあっているとわかっていながら、彼らの価値観が両立することはありえません。
島の人々の楽しみといえば、パブで飲む酒と卑しい噂話。
島の人々は、パードリックとコルムがなぜ意固地になって互いに狂気じみた行動をとるのか、理解できないし理解しようともしません。
対岸の内戦を「何のために争っているんだか」というように、傍観者にとってはひまつぶしの話のタネでしかありません。
本作を観ていると、ふたりの決意や狂気的な執着に引き込まれながらも、時にふっと傍観者の視点に置かれるような感覚を味わいます。不思議。
レビューを拝見すると、観る人によって印象は様々のようです。
私は、パードリックは素朴で善良な人間だと受け止めました。
無学で面白みはなく退屈な人間かもしれませんが、卑しい話にはのらないし誰かを不当に扱ったりしません。
変わり者のドミニクがよく懐き、とっておきの密造酒を飲み交わすくらいです。
妹のシボーンが島の暮らしに飽き飽きしながらも、パードリックを一人にできず苦悩するくらいです。
きっとコルムもそんなパードリックを好んでいたのでしょう。
しかし、創造的に生きると決意したコルムにとって、パードリックに関わっていられる時間はなくなったのです。
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