「自分自身への教訓」イニシェリン島の精霊 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
自分自身への教訓
脚本兼監督であるマーティン・マクドナーの作品をはじめて観たのは『スリー・ビルボート』だが、彼がアイルランド人であり、母国を舞台とした三部作などを過去に撮っていたことはこの作品を観る前に下調べするまで知らなかった。2人の主演男優もアイルランド人で、アイルランド本土とは別に存在するイニシュリン島という架空の場所を設定し、そこにアイルランド文化を再現したこの作品はアイルランドという国の一断面を伝えているのだろう。
酒好き、音楽好き、積極的な恋愛をしないというアイルランド人の特徴は、この作品の中でも、パブのシーンが頻繁に出てくること、主演男優の1人がヴァイオリニストであること、2人の主演男優、助演女優が独身者であることからわかる。
マーティン・マクドナーはアイルランドのクエンティン・タランティーノといわれていて、暴力的な表現をするものの、それをブラックユーモアに転じてしまうらしいが、なるほどと思った。俺に話しかけたら指を切り落とすといって本当にすべて切り落としてしまうというシーンがあるが、凄惨ではあるもののどこか滑稽だった。
人を拒絶してしまいたくなる気持ちはよくわかる。人生の残り時間を考えたら、話がつまらない相手と過ごすことが退屈で時間がもったいないと思うことも納得する。だが、人付き合いを断つからにはその獲得した自由な時間の中でなにかを成し遂げないといけない。自分だけができることを追求してそこにすべての力を集中させないといけない。自分自身に言い聞かせる教訓ができた映画であった。
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