「先の見えない物語を楽しむことができる人にはぜひおすすめしたい一作」イニシェリン島の精霊 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
先の見えない物語を楽しむことができる人にはぜひおすすめしたい一作
『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督作品のため、一筋縄ではいかない展開を予想していたら、やっぱりそうだった!という点では予想通り、という何とも不思議な作品です。
話の発端は謎めいているが、とても明快です。突然の絶縁を言い渡された男が、その真意も理解できず右往左往する中で様々なできごとが起きていくのですが、物語にちりばめられている要素がとにかく非常に不可解だったり、何らかの連想を促すようなものだったりします。島そのものは一定の住民が複数の地域に集住している、一つの社会であることは分かるものの、対岸で「内戦」をしているらしい本土とどのような繋がりがあるのか明言していません。さらにあちこちに配置された十字架、島の中心にそびえ立つ教会などからキリスト教の信仰が島の社会に深く根を下ろしていることは窺えるのですが、一方でファンタジー世界から抜け出したような謎めいた老婆が登場するなど、土着宗教の影響も仄めかしています。というか、題名の「精霊」そのものがキリスト教以前の神話世界で信じられていた存在だったりします。もちろん、絶縁の宣言を破って干渉してくるのであれば、指を切り落とす、という不吉な予告の(物語上の)意図も、容易には明らかにされません。
友人コルム(ブレンダン・グリーソン)に絶縁されたパードリック(コリン・ファレル)がなんとかそれまでの日常を取り戻そうとしてあたふたしたり激高する様は、時にいらだたしさを強調した描写であるため、その表面上の所作に秘められた意味を読み解いていく心積もりでないと、集中力が途切れがちになるかも知れません。結末に不思議な余韻を残す作品なので、様々な読み解きを促す作品という前提で鑑賞することをお勧めします!