「憎しみと怒りに満ちた美しい寓話」イニシェリン島の精霊 CR7さんの映画レビュー(感想・評価)
憎しみと怒りに満ちた美しい寓話
リアルなストーリーとして見てしまうと説得力がないんだけど、人の分離感と恐怖、憎しみを象徴した寓話として見ると納得。アイルランドという神話的な土地、動物たちの重要な役回り、魔女のような老女の存在など、寓話的な要素がそろっている。
物語の背景にアイルランド内戦があるのも意味深い。
多くの人々の内面に、こうした他者に対する悪意や嫌悪感があり、それは痛切な痛みを伴って指の切断や自殺や戦争として現実化する。
「精霊」というと、日本人は、何か神秘的な良い存在をイメージするかもしれないが、原題の精霊にあたる「Banshees」は、苦しみに満ちた金切り声を上げる妖怪のような存在。闇の苦しみの中にあり、痛みに満ちた生の中にある人は、こうした悪霊のような存在になるだろう。
物語の闇深さとは正反対に、撮影と音楽が息をのむほど美しい。
アイルランドの自然の美しさと陰影のコントラストや配色など、映画的な美が満ちている。
加えて、アイルランド民謡をモチーフにしたであろう音楽も格別に良い。
こうした脚本を書くマーティン・マクドナー監督は、もしかしたらウツ病の傾向があるかもしれない。
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