「バカは死んでも治らない」イニシェリン島の精霊 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
バカは死んでも治らない
え?内戦?アイルランドの内戦って、ほぼ100年前になるんですよね。日本の大正時代末期。電気も通ってない事を考えると、まぁ納得も行く所かと。
考える時間や創作の時間を取るために、無駄話しかしない男に絶交を告げる。その価値観が全く理解できない男は退屈・退屈じゃない、優しい・優しくないと言う情緒のみで、人間関係を説明する。
だからね。そんな話じゃないんですって。
これがこれが。100年前のアイルランドの、離れ小島だけの話じゃなく。今の日本を眺めても、この構図は当てはまる。
芸人が出て来て無駄話を延々と続けるTV番組を見るよりゃ、ひとりで本を読んでた方が良い。って人もいれば。一人で読書なんてシケタ時間を過ごすよりは、その番組を見ながらゲラゲラしてる方が楽しい、って人もいる。
コルムの主張は、お互い関わりを求めるのを止めよう。
なんだけど、パードリックにはコレが解らない。親友が指を切り落としても、まだ解らない。徹底的にバカ。島一番のバカはドミニクだと言うけど、ドミニクよりもバカなパードリック。しかも自分の罪を振り返らない。教会で懺悔するコルムの姿の描写は、自らを真摯に顧みないパードリックの人格を浮き彫りにします。
ロバの死でコルムへの憎悪を膨らませるなんて、逆恨みも良い所。コルムの家を燃やしても気が済まぬ。これが始まりだと言う。もう、本当に救いようの無いバカです。でですよ。こんな救いようの無いバカは、そこら辺に溢れ返ってるよね。って事で。
この一番寒い時期に、寒々しい風景を見て身体が冷え冷えしてしまいましたが。
興味深かった。
とっても。
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1/30 追記
コルムと言う「親友」から見放されたパードリックは、パブで独りきりになることが多くなります。一方、コルムの方は仲間と共に音楽を奏でたり歌ったり、話し相手にも困る様子はありません。そもそも、パードリックのバカ話に付き合ってあげていたのがコルムだけだっただけなのではないかと思えてしまう。
パードリックは、絶交後の二人の状況の相違について、その理由を考えることもありません。俺が何かしたか?と周囲に問いますが、自らを振り返ることもありません。そうなんですよ。考えないんです。全く何も考えない。感情だけで生きてるんですよ。
この二人は「思考」と「感情」の象徴な訳です。
「創作」と「感情」でも良いかも知れんけど。
思考は感情と決別しようとする。感情は分離を受け容れない。いつまでも付きまとって来る。それどころか、命を奪うまで復讐する気だとまで言う。
原題は”The Banshees of Inisherin”。これが"Banshee"なら、ミセス・マコーミックが、もっとも当てはまる存在ですが、" Banshees "と複数形ってのが意味深です。結局、どちらか一方がくたばるまで黙らないであろう二人は、ふたりとも” Banshee”なのだと。
他人への郵便を開封して読んでしまう郵便局の悋気なオバはん。権限を振りかざして、感情のままに他人を殴る変態警官。無邪気だが知性とは程遠い愚者。Fuckを口にする職業神父。もう、どの存在もが現代社会の「何者か」を象徴してる気がしてくる、と言う、ちょっと文学的な作品。深読みすれば、どこまでも深読みできるところが興味深いです。
同感です❗
コルムとパードリックは対比の関係ですね。
そして、パードリックはコルムの他にはドミニクしか友達がいないことに気づいていない。見下していたドミニクにさえ呆れらて、その事にも気づいていない。
コルムは、そんなバカ野郎に何かを気づかせたかったように思います。
思考と感情。
なるほど。
コルムについて、今ひとつしっくりしていなかったのですが、とてもすっきりしました。
いつも理性的でいようと思ってても、気が付いたら感情で動いている、なんてことはいくらでもあって、いまだに反省することばかりです。せめて、同じバカでも、気付けるバカでいようかと。
落語が好きなんで、昼になったら職人はもう風呂にでも入って、吉原に冷やかしに行くかー、とか町内の若い衆でワイワイやっていて、そこに必ずいるのが与太郎といった噺がよくあります。パードリックは与太郎なのかなあ。落語の与太郎にはしっかり者の奥さんいることもあり、パードリックにとっては妹だったと思います。この映画で分かりやすい与太郎役はドミニクだったと思いましたが父親ゆえに可哀想であんな最期になる与太郎は落語の世界には居ないな、などとりとめもなく頭の中がとっちらかってきました。
bloodさん、有り難うございます。追記読みました。確かにコルムは社交的でパードリックとは比較にならない。音楽という強みもあるから本土の音楽学校の学生まで呼ぶ(来てしまう)。著名な音楽家だったのかなあ、コルム。コルムがひたすらパードリックの相手をしてあげていたってことなのかなあ。馬鹿だけど憎めない、でもそういう馬鹿な人が一番怖いのかな。神父も警官もそういうのが職業のくせに(だからなのか)最低でした。権威をかさにきて、という人ほど最低、というのは小説などにもいっぱい登場してますね。