「作家の人格と作品の価値。」TAR ター レントさんの映画レビュー(感想・評価)
作家の人格と作品の価値。
主人公ターが教鞭をとる大学での講義の長回しのシーンが圧巻だった。そしてこのシーンが本作のネックだったと思う。
女性蔑視のバッハを嫌い、その曲まで否定する生徒に対してターはむきになり講義のレベルを超えてしまう。
リディア・ターは自他ともに認める天才マエストロ。彼女はレズビアンを公言し、自分が指揮するオーケストラの女性団員と婚姻関係にある。
そんな彼女が作家の性的嗜好や人格をその作品の評価基準とされることに反発するのは当然だが、若い生徒に対しての彼女の攻撃は少々度が過ぎていた。それは娘のいじめっ子に対する態度も同様に。
作家の人格と作品の価値。作家の人格や言動がその作品を評価するにおいて基準の一つとされるべきであろうか。
特に最近の映画業界ではこの話題で持ちきりだ。監督が演技指導と称して女優に性的暴行、出演俳優が性的暴行あるいは薬物犯罪を犯した等々。それが原因で作品がお蔵入りに。
作品自体に罪があるのかとこういった事件が起きるたびに議論されてきた。当然スポンサーのついてる作品ならば公開は難しくなるだろう、スポンサーはイメージを大事にしたいから。しかし、作品の価値がそれによって下がるだろうか。
極端な話、死刑囚が作った芸術作品が高い評価を得ることだってあるかもしれない。そもそも人間の心の中なんて誰にもわからない。心が汚いから作品も汚いなんて言える人間がいるなら逆にその人の心の中を見せてほしいと思う。
人間の心の中は見えないが作品は見える。結局は目に見えるもので判断するしかない。
劇中でソリストを選ぶオーディションのシーン、演奏者が誰か見えないように壁が立てかけてあった。先入観なしに演奏の良し悪しだけで選ぶためだ。作家の人格で選ぶとしたならたとえ素晴らしい作品でも作家の顔が見えていてはその作品は選ばれないかもしれない。
ちなみに私は今でもロマン・ポランスキーやケビン・スペイシーの作品は好きだ。
天才マエストロのリディア・ターは仕事も私生活も順風満帆のように見えた。しかし頂点に上り詰めた彼女も御多分に漏れず権威におぼれ、自らの欲望を満たすために周りの人間を傷つけていく。自分の意に添わなかったレベッカを貶めて死に追いやったことから彼女は糾弾されその地位を失う。
女性指揮者として逆境の中築きあげた地位が崩れていくのは一瞬だった。彼女が普段感じていた視線、何らかの音に悩まされていたのは彼女の罪悪感からくるものだったのだろうか。
表舞台を追われて落ち着いたフィリピンの地でマッサージ嬢を選ぶ際、思わず嘔吐してしまったのは自分の今までの行いを思い知ったからだろうか。
主人公は女性だが、男性と同じく権威を手にした人間がその地位におぼれて道を踏み外していく様を性差なく描いた点、ジェンダーレス映画としてもよくできた作品だったと思う。
また誰もが羨望の目で見つめる完璧な存在だった主人公が徐々に追い詰められて狂気を帯びていく様はスリラーとしても実に見ごたえがあった。
ちなみにクライマックスでオーケストラに乱入して相手の指揮者を突き飛ばす際の掛け声はやはり「ター!」だったな。これが主人公の名前の由来だと思う。(噓)
ベルリンフィルの常任指揮者の地位を追われてフィリピンの場末のオーケストラを率いる彼女。あれだけの不祥事を起こしたのなら業界から永久追放でもおかしくない。しかし、人格に関係なく彼女の作り出す作品は本物だったからこそ、リスタートの機会を与えられたんだろう。
送られた本の意味や生徒の貧乏ゆすり、ラストのコスプレコンサート等々わからないシーンが多いので、レビュー書き終えたら解説動画見てみよう。
こんにちは♪
共感ありがとうございます😊
やっぱり、レントさん、ぶっとんでいますね。憧憬の眼差しを
送りますワ❣️
話変わりますが、以前、本サイトでレビュー凍結or削除?されてどのように復活されましたか?
今お一人おられるので助言できればと🦁