「指揮者の苦悩」TAR ター parsifal3745さんの映画レビュー(感想・評価)
指揮者の苦悩
まずは、マーラーの交響曲第5番の演奏風景が扱われているので、ビスコンティの「ベニスに死す」を嫌でも思い浮かばされた。あちらは、美に魅入られた男性作曲家の苦悩だったけれど、こちらも美に魅入られた女性指揮者の苦悩という対比が面白い。「ベニスに死す」では、旅先で偶然知りえた、美しい少年を追いかける物語だったが、こちらは、Tarが男性社会に負けないように、日々、緊張と集中を強いられる中、安らぎを女性性に求めているようにも見えた。ケイト・ブランシェントの指揮を含めた演技も鬼気迫るものがあり、公私で次第に不協和音が重なって追い詰められて、転落してしまうのは、現代ならではか。
劇中、作曲家マーラーが交響曲第5番がきっかけに、人生が大きく変わってしまったのが暗喩に使われているかのよう。とかく、女性同士世界の方が、男性同士よりもやっかみ、嫉妬が多く、感情的な反応が強いだけに、男性優位の指揮者という職業でのむずかしさを描いているようにも見えた。
Tarの転落劇にしても、クリスタという生徒が自殺したこと、授業でバッハを拒否する男子学生への指導、副指揮者の後釜で身びいきの女性を指名しなかったこと、チェリストを団員以外の女性を抜擢したこと、子どものいじめ、仕事部屋から転居を迫られたことなどで、映画で見た感じでは、グレーであり、本人の責任だけではないような違和感が残った。女性が上り詰めることは難しいってことなのか。
欲を言えば、クラッシック音楽が好きで、音響が素晴らしかったので、もっと音楽シーンが聞きたかった。
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