「ゲーム弱者にとっては、まさに???」TAR ター osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
ゲーム弱者にとっては、まさに???
やはり、ケイト・ブランシェットは凄い。
彼女以外では本当に有り得ない。
またマーラーの5番というチョイスが、まさにグーの音も出ないというべき見事な設定。
意表を突く構成も面白い。
本来であれば、エンディングの後に流れるはずの長いクレジットが、なぜか?冒頭から延々と始まる。
そして、その意味が、観終わった後になって「な・る・ほ・ど〜」となる、あのラスト!
しかし、ゲーム弱者にとっては…
まさに???となってしまう…
さらに言うと、ストーリーの脇の甘さが気になる。
メールの削除が出来てない事を知りつつ、そのまま放置というのは、全く現実的でない。
あのシーンは、もっと強権的にアシスタントを追い詰め、確実に削除させないと。
まあ、そもそも、各オーケストラ団体に届いていた着信メールが明らかになれば、削除の意味もないのだが…
そういった意味でも、もっと自身の保身を盤石にさせる老獪な策は練らないと…
また、その一方、投資家であるエリオットが、裏から法曹界に働きかけ、強力な弁護士は使えないように指図していたとか…(そうなれば、より一層あの乱入シーンも際立つ)
そのくらいもないとねえ…
まあ、別に本作は権謀術数のサスペンス映画でも無いのだが…
リディア・ターなる人物が、実際本当にいるんでは?と思えるほど、非常に現実感の強い演出と芝居で引き込まれる展開だったので、やはりプロットの方もリアルに徹してくれないとねえ…
結果どうしても手抜きに見えてしまう。
監督自身も語っていたが、この映画のテーマの肝は決して表面的なキャンセル・カルチャーの歪みなどでなく、権力それ自体の腐敗にあるのだから。
権力を持ってしまった者の腐った足掻きは、もっとリアルに見せて欲しかった。
そこは、ちょっと物足りなかった。
あと、ドイツ語の台詞は全て字幕を入れないと!
元の英語版に英語の字幕が入っていないシーンは、そのまま殆どスルーしてしまったのだろうが、やはりヴィスコンティの件は入れるべき。
たぶん「ヴィスコンティの事は忘れるように」と言ってるのだろうが、まさにその『ヴェニスに死す』が、その後の彼女の行先を暗示してるのだから。
そして、そのマーラーの第5番のライブ録音がリディアにとって一世一代ともいえる大仕事であることは、劇中もっと繰り返し伝えた方が、いろんな意味で効果的であったと思うが…
しつこいのは野暮と思ったかねえ。
まあ、それにしてもケイト・ブランシェットの圧巻の演技!100年経っても語り継がれるのは間違いないと思う。