「リスペクトの対象」TAR ター U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
リスペクトの対象
なんだろ、コレは?
作中のクラシック同様に監督の意図を読み取れとでもいうのだろうか?まるで作中にあるクラシックの楽譜のような構成だった。
この作品の見方が分からない。
後半などはエラく駆け足だったようにも思う。
冒頭から語られるのは「ター」という指揮者の紹介だけだ。こんな事してこんな性癖があってこんな考え方で…なのだけど、彼女の素顔は見えてこないようにも思う。肩書を維持する為の立ち居振る舞いを延々と見せられてるような。
彼女には指揮者という権力があり、それに見合う実績もある。それ故に生殺与奪の権限までも有してるかのようだ。後半になりその一部が発覚し、彼女は落ちぶれていきのだけれど…その件の早いこと早いこと。
まるでブツギレのように事象だけが繋がれていく。
ほいで、崇高なクラシックとはかけ離れた、ゲームのイベントのような会場で幕は下りる。
は???
問題は、何も核心を描かないというか…観客達が共有するものが極端に少ないという事だ。
物語に色々と転機は訪れる。それなりの材料は提示もされる。でも、そこの詳細な感情などは描かれない。主人公にも脇役達にも。
だから、冒頭の書き出しになった。
「映画の詳細な物語をどうぞ皆様で構築してください。まるで指揮者が楽譜や楽団と対峙するかの如く」
…いや、知らんがな。
だから、この映画を何に分類していいかも分からない。
大筋は提示されるも解釈は無限に広がるのだ。
メッセージ的なのはいくつはあって。
スキャンダルによる才能の消失だとかはわかりやすい。
権威を振り翳す者の末路とか。彼女自身も虎の威を借る狐に見えなくもない。
彼女に優秀な才能があるのは確かなのだろう。でも真にリスペクトされるべきはバッハでありベートーヴェンのはずである。そのリスペクトの対象を本人も周囲も世界さえも間違えてるみたいな。
ターをそのまま映画に置き換えるのならば、監督も主演俳優も作品を構成するパーツでしかないのだから、踏ん反り帰って偉そうにする資格などなく…作品以外をリスペクトするような事は滑稽でしかないのだ。
現に彼女は落ちぶれていったけど、バッハやベートーヴェンが落ちぶれるような事はないのだ。
分からないけど、ハリウッドの現体制への警鐘も含んでるのかもしれない。
まぁ…拡大解釈ではあるけれど。
主演ケイト・ブランシェットは流石であった。
何ヶ国語を喋るんだとも思うし、学生に講義してたあの1カットは…エゲツない。
ほぼ1人で喋ってる。莫大な情報量の台詞だし、ピアノを弾けば歌まで歌う。
そこにいる他の役者陣は相当なプレッシャーだったんじゃなかろうか…。
謎、ではないが、余白に満ち満ちた作品だった。
クラシックの業界に明るかったり楽曲の知識があったりする人はまた違う観点もあるだと思われる。