「作者の人格と作品自体の価値」TAR ター nakadakanさんの映画レビュー(感想・評価)
作者の人格と作品自体の価値
指揮者である主人公の生活を淡々と捉えるような映像ですが、栄光を手に入れ自信に満ち溢れた日常の中に緊迫感や不穏感が立ち込めてゆく様子が良かったです。
ある理由で段々と立場を失ってゆく展開は、自業自得という部分もあると思いますが、何だか男性の権力者のお話にありそうな自業自得ぶりと感じました。
見る前のイメージでは、女性がトップに登り詰めるための女性としての苦労などが描かれているのかと思っていましたが、権威ある立場を利用しよろしくない振舞いをして転落するという、権威を持つ者に男も女も関係ないとは言え、不思議な印象でした。
音楽に対する真摯な態度については好感が持てますし、作者の人格と作品自体の価値について講釈するところは成程とは感じましたが、生徒に対する攻撃的な論破はやはり不適切だと思います。
あの場面の嫌な空気感、居心地の悪さは半端なかったです。
ラストはバッドエンドともハッピーエンドともどちらとも取れる、という話は聞いていたのでどうなるかと思っていましたが、ビジュアルとして…え?と。
小さいながらもクラシックのコンサートで再起すると思ったらコスプレイベントかーい!と、カメラワークもそういう困惑をさせる見せ方で、インパクトがありました。
確かに、世界最高峰のオーケストラからこれとなると、正直落ちぶれたやるせなさを感じます。
しかし、転落した後の、幼少期の音楽に対する純粋な気持ちを確認したらしき場面を踏まえると、権威や場所などは関係なく人を感動させる音楽を信じ真摯に向き合っている様は尊さも感じます。
冒頭のエンドクレジットの民族音楽らしき歌は、民族音楽を研究していたという主人公が栄光や権威を手に入れる前、音楽に対する純粋な気持ちを象徴するものだろうかと。
ラストはそんな栄光や権威を手に入れる前に戻ったということかとも思いました。
ラストシーンの後のクレジットの音楽は、現代的な機械音楽のようでしたが、最初の民族音楽からクラシックな管弦楽を経て機械音楽へと時代が変化している、権威あるクラシックも音楽の一時代に過ぎないということなのかとも思いました。
音楽の力を信じて音楽に身を捧げる指揮者として主人公は尊敬できるものの、権威に溺れて人を蔑ろにするのは共感できないところなど、作者の人格と作品自体の価値を論じる部分と重なりますし、ラストも含め価値の捉え方を考えさせられます。
具体的な説明がなく示唆するようなよく分からない部分も色々ありますので、考察や批評なども見てみたいと思います。
後から、ラストのコスプレイベントはゲームのモンスターハンターのコンサートらしいと知りました。