「主役を女性にしたのは意図的に感じる」TAR ター てけと2さんの映画レビュー(感想・評価)
主役を女性にしたのは意図的に感じる
主役を男性指揮者から女性に転換した事でハラスメントの実態がより明瞭になったように思う。
男性→女性の力関係が取り払われ、狭い世界の中で絶対的な権力をもったレズビアンである事でマイノリティ=弱者の色眼鏡が外されハラスメントが必ずしも性別や人種で関係が決まるものではなくて、あくまでも当事者間の関係、環境、立場に起因してそれに個人の先入観や差別意識が乗っかってくるって状況が分かりやすかった。
更に白人権威主義的なクラシック界を舞台にすることで、芸術やエンターテイメントを囲む環境と観客の目の時代的変化を痛感させられる。
もう前半でのターの言動が後半になってブーメランになってガンガン刺さってくるのがすごい。前半を見ている時はもっともらしく聞こえていたけど、後半になるにつれ時代の価値観に擦り合わさって見え方が180度変わってしまう。
それは映画を囲むフィールドが前半のクラシック界の中から後半はもっと広い世間へとスライドしたからだと思うんだけど、大事にする基準が違う眼線へ移動したとたんに前半のター眼線の自分の事以外は他人事から、後半はターの事なんて他人事に見えてくるのも空恐ろしい。
他にもクリエイティブ論みたいな事が色々と入ってきてそれも面白かったです。
作品の所有者と解釈はあくまで鑑賞した個人にあって、作ること自体は指揮者や監督には出来ない。以前は作品のパッケージの顔は総括する人にあったけれど、もうクオリティの質は作るスタッフやスタジオの力が先に立って、作り手の作品の解釈をありがたがる時代は終わって個人の様々な見方を許容できる事の方が重要になったって意味にとれました。
ちょっとしたワードがけっこう刺さってくるのが面白かったのとオチには笑いました。
家で見るには集中力が必要な映画だったのと音が良いのとで映画館で見てよかった!
いわゆるオーケストラやバンド系映画みたいに一曲通して魅せるシーンは無いけど、音の緊張感やターの見ている世界を感じるのは劇場の臨場感ある環境で見た方が断然良いですよね^ ^