「次のフェーズ」TAR ター キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
次のフェーズ
これまで、貧困・性差別・様々なマイノリティや社会的弱者に寄り添う様な作品がたくさん作られて来た。
世の中は、そういった問題の撲滅には至らないものの、それが「問題」として多くの人々に理解される所までは来たという印象。
この現状の中で、引き続きそういう作品が作られる意図にはもちろん異論ないものの、作品で描かれる被害者を見る度に「でも、現実の社会的弱者がみんなこんなに善良で誠実で純粋で勤勉なワケでははい」という(当たり前と言えば至極当たり前な)点は、どこか居心地の悪さを感じていた。
そしてこの「TAR」では、その先。
かつて「弱者・マイノリティ」のカテゴリーに分類されていた人物が「多様性が肯定され始めた社会」の中で、才能や努力によって大きな力を手に入れ、その力の濫用、エゴや傲慢によって身を堕としていく姿が描かれる。
彼女が手に入れ、行使した「力」は、まさに過去の弱者たちを苦しめた「力」そのものだった、という皮肉。
物語の大きな流れとしてはそれ以上のことはないと思うのだが、正直なところ観ている最中は「これ、何の映画?」とずっと考えていた。
2時間半と結構長い作品中、とにかく散りばめられたピースがちゃんと回収されることなく散らばったままなので、解釈もこちらに委ねられていく。
ミステリー?
サスペンス?
ホラー?
社会派?
いや、映画の雰囲気がそうさせないだけで、笑おうと思えば笑えるシーンも結構あるし。
最後の「オチ」が急に我々庶民の嗜好に寄せてくるため、その印象が強く残ってしまうけど、観終わった後に「これは…なんだったんだろう…」と変なしみじみを体験する、少し変わった印象の映画。
ただ、もしこの映画を分類するとすれば、迷いなく「ケイト・ブランシェットの映画」だということは言える。