「天才はこう潰されゆく」TAR ター マスゾーさんの映画レビュー(感想・評価)
天才はこう潰されゆく
ケイト・ブランシェット
1969年オーストラリア
メルボルン生まれ
舞台女優からキャリアをスタート
1998年の「エリザベス」で主役を演じ
大ブレイク
「ロードオブザリング(2004)」
のガラドリエル
「アビエイター(2004)」
のキャサリン・ヘプバーン
など主役を食いかねない存在感
を常に発揮しスクリーンを
常に引き締める存在である
近年でも
「ドント・ルック・アップ」
「ナイトメア・アリー」
などでも印象的な
演技を見せつけている
そんな天才が
天才女性指揮者リディア・ター
を演じる今作
どうだったか
かなり特異な構成で序盤は
置いてけぼり感が半端ない
ものの徐々に理屈が
わかってくるとリディアへの
共感性が上がっていき
何とも言えない気分になって
いく展開は知らず知らず
引き込まれっぱなしでした
女性指揮者として
その才能をほしいままにする
リディア・ターは
インタビューでもマーラーの
音楽性について
インテリジェントに語り
音楽に対する妥協のない姿勢は
音楽学校においての指導に
ついても思想にとらわれない
音楽性への理解を生徒に促すなど
徹底していました
うわーこんな人絶対
共感できんわという導入
しかしかたや私生活では
レズビアンで同性婚カップル
と移民の養子を引き受けながら
その娘のいじめに対しても
真摯に向き合う姿勢を見せる
親としての使命をれっきと
果たしている人の親な側面が
描かれるごとに徐々に
この天才に対する共感性も
出てくるのです
ところが
そのリディアに依存する
同じ女性指揮者クリスタを
精神的に不安定で
仕事ができる状態ではないと
プログラムから外す意見を
秘密裏にしていた
ことで見放されたと思った
クリスタは自殺
それによって残されたメール
等によってその自殺がリディアの
態度によって起こされたものだ
という遺族からの告発など
予想外の事態に巻き込まれ
信頼していた秘書の
フランチェスカもその概要の
公表に加担してしまいます
そこにはリディアに対する
あまりに高い情愛の念からくる
嫉妬などといった感情も含まれて
いるのでしょう
リディアの思わぬ方向に事態は
進んでいきやがて
精神的に追い詰められ
立場をも失っていきます
印象的なのはリディアが
心血を注いで追及した
音楽の世界も
世間一般の人からすれば
アパートの隣の部屋から
聞こえてくる「騒音」
であることなど
それが現実だよねと思いつつ
他意なく直接言われると
堪えるものなんだろうなと
思わされる場面がありました
孤高の天才の立ち振る舞い
一般人には理解されないところ
あると思います
天才という表現も
畏敬の念でありながら
あいつは普通じゃないと世間が
その人を突き放すものです
大谷翔平もそうでしょう
彼のストイックなまでの
野球に対する姿勢は常人の
理解を超えているところが
あると思いますが
きっと大谷翔平にも
なんら普通の人間と変わらない
人隣りがあると思います
でも世間は突き放してしまう
面白いのはこの映画における
「指揮者」要素がどんどん
なくなっていくあたり
もはや天才の世界の話に
なくなっていってる展開
この辺はあえて
そうしているんでしょうね
そんな才能を持った人間の
苦悩がきちんと描かれている
作品だったと思います
序盤の展開が置いてけぼり過ぎて
評価は上がりにくいかもしれませんが
個人的には普段見ている
映画と違った変化球的で
なかなかいい作品でした