「主人公の運命に納得することも同情することもできない」TAR ター tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
主人公の運命に納得することも同情することもできない
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地位も名声も手に入れた女性指揮者の話なのだが、何を描きたいのかがなかなか分からない。
評論家とのトーク・イベントや同業者との会話、あるいは学生に対する講義などで延々と音楽論が交わされるのを観ていると、「独り善がりな規制で芸術の自由を奪うべきではない」みたいなことを言いたいのかと思ったが、そうでもない。
序盤こそ、主人公の華々しい活躍が描かれるものの、副指揮者をクピにしたことでアシスタントがやめ、教え子が自殺したことで裁判沙汰となり、若いチェロ奏者を登用したことでパートナーとの関係に亀裂が入るなど、どんどんと雲行きが怪しくなっていく。
ドアのチャイムやメトロノームの音だけでなく、冷蔵庫のモーターや車内の振動によって生じる生活音、あるいは実際の音とも幻聴ともつかない悲鳴などを巧みに使って、主人公が精神的に追い詰められていく様子が描かれるが、困難に直面しながらも作品を完成させようとする芸術家の話なのかといえば、そうでもない。
終盤になって、ようやく、これが「転落劇」であることが分かるのだが、コンサートが始まろうとするその時に、いきなりそのことが示されるくだりは、この映画の一番衝撃的なシーンと言えるだろう。
ただし、なぜ主人公がすべてを失うに至ったのかについての情報があまりにも断片的過ぎるため、主人公が受けた仕打ちに納得することも、主人公に同情することもできないし、ましてや、その結末に感慨を覚えることも、感動することもできなかった。
それ以外にも、全体的に事実をぼかして描いているようなところが多く、それが、上映時間の長さと相俟って、「余白」ではなく「説明不足」と感じられたのは残念だった。
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