劇場公開日 2023年11月10日

  • 予告編を見る

「【イタリアの詩人、劇作家、演出家、蟻の生態学者として知られるアルド・ブライバンティが、同性愛者を裁く法律が存在しない国で、権力が作り出した教唆罪に問われても、人間の尊厳を失わない姿が印象的な作品。】」蟻の王 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【イタリアの詩人、劇作家、演出家、蟻の生態学者として知られるアルド・ブライバンティが、同性愛者を裁く法律が存在しない国で、権力が作り出した教唆罪に問われても、人間の尊厳を失わない姿が印象的な作品。】

2024年5月23日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■1959年、イタリア。
 アルド・ブライバンティ(ルイジ・ロ・カーショ)は、主催している芸術サークルで、兄マンニコに連れられてやってきたエットレ(レオナルド・マルテーゼ)という若者と出会う。
 2人は惹かれあい、やがてローマで暮らし始めるが、エットレの母、兄マンニコにより教唆罪を問う裁判に掛けられる。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・冒頭、精神病院に入れられたエットレが電気ショック療法を無理やり施行されるシーンが出るが、1960年代のイタリアでは同性愛は差別と偏見に晒されていた。

・劇中には出て来ないが、アルド・ブライバンティの教唆罪を問う裁判では、パゾリーニ監督や、ウンベルト・エーコらが彼のために活動した。
 が、パゾリーニ監督は「ソドムの市」を制作後、何者かに虐殺されている。

・ジャンニ・アメリオ監督は、今作で実在しない新聞記者エンニオ(エリオ・ジェルマーノ)を登場させ、アルドを支援させる。
 今作で、同性愛への差別や同調圧力への批判が濃厚に漂うのは、監督の想いを新聞記者エンニオの姿や言葉に投影させているからであろう。

<アルドは裁判中の序盤、一切裁判官を見ないし自分の意見も言わない。だが、エットレの人格を歪めたと糾弾する検事たちを前に、彼は裁判の再後半に言う。
 "他人が何を言おうと、心の中は誰にも侵せない自由の王国なのだ。"、と。
 今作は、同性愛者への差別と偏見に立ち向かった実在した芸術家とお互いに愛し合った青年の生き方に基づく”人間の尊厳とは何か。”を観る側に問うてくる作品なのである。>

NOBU
talismanさんのコメント
2024年5月24日

NOBUさんのレビュー、いつもながら情報も感想も素晴らしく嬉しくう拝読いたしました。記者役の俳優はこの間のイタリア映画祭で「信頼」という映画の主役(嫌な役でした)でしたが、同一人物と全くわからなかったです。ルイジ・ロ・カーショも素晴らしい俳優ですね。イタリアやイギリスで芸達者でいい俳優は大体、舞台俳優であった(ある)のが出発点だと聞きました。奥が深いなあ、芝居は、と思いました。

talisman