「囚われの人々」MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない レントさんの映画レビュー(感想・評価)
囚われの人々
会社勤めなんかしてると毎日同じ時間に電車に乗り同じ職場に通い同じ同僚に囲まれ同じような会話をし同じような仕事を続けていたら日々同じ時間を過ごしてるかのような錯覚に陥っても不思議ではない。何の変わり映えもしない日常。日々同じような日常に囚われてるかのように働く人々が実はタイムループに囚われていたというまさに現代人を皮肉ったドラマ。
小さな広告代理店に勤める主人公朱海。いま、彼女は大手広告会社からのヘッドハンティングのチャンスを逃すまいとそこから請け負った仕事に追われていた。
そんな時同僚から同じ一週間をループしてると告げられる。確かにその通りでこのループから抜け出すためには同僚らと協力してその原因を突き止めなければならない。しかし上昇志向の強い彼女はタイムループに閉じ込められている事実を知らされてもそれさえも利用して仕事をブラッシュアップさせキャリアアップにつなげようとする。時間を余分にかけれるぶん確かに仕事の出来は良くなり相手には喜ばれるがしかし結局は同じ月曜にもどってしまい元の木阿弥となる。
やはりループから逃れるしかない。しかし、その原因が部長がかつて諦めた漫画家への未練にあることを突き止めてもいまだ彼女はキャリアアップのことで頭がいっぱい。みんなで部長の漫画を完成させることにも非協力的だった。仕事に追われ恋人への態度もおざなりになっていた。
自分はいつまでも同じ地位に甘んじていたくない、自分はこんな小さな会社で終わりたくない。いままさにキャリアアップのチャンスが目の前にある。彼女が目の前のことに囚われてしまうのも致し方ないことであった。
自分の目の前の仕事にしか目が行かない彼女が同じ時間をループしてることに気づかないのも無理はなかった。
また理由は違えどそれは他の同僚たちも同じだった。変わり映えしない日常を生きる彼らにしたら、それが心地よくあったのかもしれない。マトリックスに囚われの人類みたいに。日々何事もなく時間だけが過ぎていく方が本当は楽なのかもしれない。この変わり映えしない時間に支配されてる方が。むしろこのタイムループから抜け出すことに不安を感じる人物を描いてもよかったのかも。ぬるま湯から抜け出すことには覚悟がいるのだから。
日々の仕事に追われ朱海は周りへの気遣いもおろそかに、恋人との関係も気まずくなる。そんな彼女が憧れの広告代理店を訪ねるとその職場環境はとてもぎすぎすした雰囲気。これが自分が憧れていた職場なのかと疑問を感じる。すべてを犠牲にしてまで自分は何を目指していたのだろうか。ただ目の前のことにばかり囚われて本当に大切なものを見失っていたのではないのか。
本作では部長の漫画の内容が入れ子構造になっている。漫画の主人公はメジャーバンドを夢見て狐の力で何度も生まれ変わるがいくら人生を繰り返してもうまく行かない。目の前の目標にばかり目を奪われていて人生で本当に大切なものに気づけないでいた。
再び自ら命を絶ち狐の力で生き返ろうとしたとき以前受験で失敗し自殺しようとした少女に逆に助けられて二人は結ばれる。彼は愛する妻と家庭を築き、バンドマンではなくただの食堂を営む。妻に先立たれ今や年老いた彼の前に再び狐が現れて言う。もう一度やり直すかと。しかし自分の人生に満足していた彼はその申し出を断る。彼は人生で本当に大切なものを手に入れていたからだった。
朱海も自分の人生で大切なものに気づく。目の前のキャリアアップのチャンスも確かに大切だがそれに囚われて本当に大切なものを失うところだったと。そうして彼女はみんなと協力して漫画を完成させループから抜け出すのだった。
会社で一番目立たず出世などから一番縁遠く見える事務員の中年女性だけがループに気づいていた。彼女がきっかけで他の人間たちもその事実に気づくことができた。
彼女だけは日々の仕事に囚われることもなく周りを一歩引いた目で見ていたからこそループにも気づけたのかもしれない。
人生を短いスパンで見るか長いスパンで見るかによって物事のとらえ方も変わってくる。長いスパンで見れば目の前のことに心を囚われることもなく冷静に判断できるようになるかもしれない。若くて生き急いでる若者と年齢をある程度積み重ねてきた人間との違いも描かれていてなかなか奥が深い作品。
低予算でも面白い映画が作れるという見本のような作品。これは拾い物だった。