ミセス・ハリス、パリへ行く : 特集
【これ嫌いな人いない説】
全映画ファンに観てほしい、批評家絶賛“奇跡の作品”
「自分の映画じゃない」と思いきや、深く刺さりました
11月公開の映画は大作、良作ぞろい! よりどりみどりで、えてして迷ってしまいますが、映画.comが全映画ファンにおすすめしたいのがこの一本です。
タイトルは「ミセス・ハリス、パリへ行く」(11月18日公開)。どんな作品かというと、とびきりハッピーでほっこりできて、「これ嫌いな人いないんじゃない?」と思える、そんなひとときが味わえるんです。
映画.comだけでなく、世界中の批評家も絶賛! 人気の評論家やインフルエンサーも「良き!」と称賛してやまない今作の魅力とは? 実際に観た3人の感想をもとに、解説&強烈レコメンドしていきましょう。
ドレスに恋し、新しい出会いを引き寄せ、人生を輝かせるミセス・ハリス。彼女が時を経て、日本中にあたたかな感動をもたらしていく――。
アメリカでは夏の超大作がひしめくなか封切られ、小規模上映ながら2週連続でトップ10入り! 辛口で知られる映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では、公開1カ月を過ぎても評論家・観客ともに90%以上の支持を維持していた(90%は“傑作”にしか贈られない高評価)。
映画.comオススメの良作です! スルーは損です!
批評家も絶賛の、映画ファンのための“観るべき作品”
※あらすじやキャストを知りたい方は、上記の予告編をご覧ください!
まずは映画.com編集部・尾崎秋彦のレビューを。30代の男性編集者、どこにでもいる普通の映画好きの感想です、どうぞ!
●大好き、この映画! 魔法みたいなシーンばかり…最初から最後まで“幸福感”が右肩上がりに続く!
仕事柄、さまざまな作品を観ていますが、ここまで自信をもって「おすすめの映画を見つけてきた!」と言えることは、そんなにありません。
ざっくりと“観て得られた感情”をお伝えすると、もう魔法のような素晴らしいシーンばかりで、10分ごとに「大好きこの映画」と大喜びでした。
社会問題をえぐる衝撃作や、世界的にヒットする超大作もいいんですが、今作のように「難しいことはなにもなく、抜けるような幸福感がずっと続く映画」もとても良いなと。例えば心がカラッカラの砂漠状態だったとしたら、まるで恵みの雨をもたらしてくれる、みたいなイメージですね。
なので映画をあまり観ない人にはもちろん、むしろ目の肥えた映画ファンの方にもおすすめです。久々です、こういうタイプの映画。きっと「ああ、この感覚をずっと求めてたんだよな」と思える、奇跡みたいなひと時を味わえるでしょう!
じゃあもう少し具体的に、どんなところがよかったの?と聞かれれば、僕はこう答えます。↓
●「自分の映画じゃない」と思ったけど…心に深く刺さりました。この冬、見逃せない珠玉の良作
もしかすると「主人公と性別も年代もまったく違うのに、本当に楽しめたの?」と疑問に思っている方もいるかも。その気持ち、わかる。ぶっちゃけた話、筆者も鑑賞前は全然前のめりじゃなく、「自分のための映画じゃあないなあ」と感じていました。
しかし実際に観てみると、不思議なことに「ミセス・ハリスの気持ちがよ~くわかる」と頷きっぱなしだったんです。むちゃくちゃ“自分の映画”でした。というのも、全人類は共通して夢がかなう瞬間を願っており、対して今作は1人の女性の夢がかなう瞬間をみずみずしく描いているから、世代や性別問わず共感性が抜群なんです。
ディオールのドレスを初めて手に取る。その瞬間の表情、吐息。彼女の体の周りを、ほわほわ、ぱちぱちした薄い膜が覆っていくのが見えます。人の人生が鮮やかに変わる瞬間が可視化された、とても優れた場面がスクリーンに映し出されるのです。
何度でも言います。大好きです、この映画! ミセス・ハリスが特別な能力があるわけでもなく、ただ彼女の誠実な人柄ゆえ周囲の人々に好かれ、応援され、サプライズに満ちたウルトラ・ハッピーな結末へとずんずん進んでいくのも芸術点高いです。満点です。
ともすれば大作の波に隠れがちですが、こうした珠玉の名作を見つめてこそ映画ファン。この11月から年末年始にかけ、私たち映画.comは今作をぜひ観てほしいと強く思っています。人類にとっては小さな一歩、しかしミセス・ハリスにとっては偉大な一歩……これを観る前と後では、あなたはきっと“別人”になっているはずです。(映画.com編集部・尾崎秋彦)
という感じで、次なるレビューをどうぞ~。
映画評論家・山崎まどかはこう観た
「ミセス・ハリスは今こそ必要とされているヒーロー」
映画評論家・コラムニストの山崎まどか(@romanticaugogo)さんのレビューをお届け。
主な著書に「女子映画スタイル」(講談社)「女子とニューヨーク」(メディア総合研究所)「ハイスクールU.S.A.」(共著、国書刊行会)など数多い彼女は、今作の持つ“社会的意義”を指摘します。
●1958年の小説を2022年に映画化した理由とは、なんだろう?
ポール・ギャリコの(原作)小説が本国(イギリス)で発売されたのが1958年。明るいミセス・ハリスのキャラクターはそれからずっと長きにわたって愛されてきて、過去にはテレビ映画でアンジェラ・ランズベリーも彼女を演じている。しかし、2022年の今、ミセス・ハリスに光を当てる、その理由はなんだろう。
ミセス・ハリスは中年の戦争未亡人で、家政婦の仕事をしている。普通はそういうプロフィールの人間は物語で脇役に追いやられ、社会的にも“見えない”人物として扱われることが多い。事件の重要人物が家政婦だから人目につかなかった、というトリックがアガサ・クリスティのミステリで使われるほどだ。
その“インビジブル・ウーマン”を堂々とヒロインに据えることによって、見えてくるものがある。彼女はディオールのドレスを求めてパリに行くが、華やかに見えるメゾンもまた、自分と同じような労働者によって支えられていることを知る。
ディオールがニュールックでファッション界を揺るがしたのは1947年だが、彼のスタイルはその後、10年以上はおしゃれなドレスのスタイルの基本となっていた。ディオールのドレスはファッションの動向が広く報道されるきっかけになったので、この頃はオートクチュールのドレスに手の届かない庶民もその美しさは知っていた。
映画では、ミセス・ハリスがお金を貯めてオートクチュールのドレスを作りにきたことによって、お金持ちの顧客ばかりを相手にしてきたメゾンが変わる様子を描いていて、これは(素敵なラストも含めて)映画独自の視点となっている。
普通の中年女性の小さな勇気が、世界を変えるのだ。そしてその世界は、今まで見えないことにされてきたドレス制作の裏方や、美しいものに憧れる一般の人々に優しい場所なのである。親切なミセス・ハリスは、今こそ必要とされているヒーロー像なのだ。(山崎まどか)
人気映画ツイッタラー・DIZはこう観た
「今年一番、幸せな気持ちしてくれた最高の映画!」
最後に、Twitterフォロワー約20万人のDIZ(@DIZfilms)さんによるレビュー。
「人生が豊かになる映画・ドラマを通じて、1人でも多くの映画好きを増やす」をテーマとする彼女は、今作を「私よりも上の世代が主人公だからこそ、大好きになった作品」と激賞します。レビューのキーワードは、“自分の幸せのために生きる人はかっこいい”です。
●“毎日誰かのために頑張るすべての人”が共感できる物語
手が届かないけれど、どうしても心にときめきをくれる素敵なアレが欲しい…!という欲求は誰もが一度は経験したことのある感情だが、ほとんどの人は現実を見つめて諦めてしまうだろう。
しかし、ミセス・ハリスは自分の心のトキメキに正直に従って行動する。クリスチャン ディオールのドレスは彼女の年収の2倍ほどの金額だが決して諦めない。これまで人のために尽くし、頑張ってきた彼女が、これからは自分のために生きる人生を選択した瞬間、信じられないような奇跡が起こり始める。
自己犠牲が美徳とされるこの社会で、簡単そうに見えて、とても難しい“自分の幸せのために生きる”という決断を後押しするように連なる奇跡の連続が、観ていて最高に気持ちがいい。
私はかつて、何年かぶりに金髪にした際に「いい歳してそんな派手な髪はやめた方がいいよ」と心ない言葉を投げつけられた経験がある。なりたい自分になるのに年齢は関係ない、と思いつつも、外見を重視する価値観が当たり前に存在する世界で育ったためか、確かにそうなのかもしれない…と思ってしまう弱気な自分も同時に存在していた。
しかし、世界でたった一つの美しいドレスを着る、という夢のために未知の世界に飛び込むミセス・ハリスの勇気が、なりたい自分になるために行動する気持ちを後押ししてくれる。
私たちはもっと自分のために、心ときめくモノを求めていいはずだ。誰になんと言われようとも。たとえミセス・ハリスと生きる時代や世代が違っても、“毎日誰かのために頑張るすべての人”が共感できる物語だ。
●この映画に出会って、私は、100歳になっても自分の好きなスタイルで生きていける
「そんな高価なドレスを着て、行くところがあるの?」という意地悪な言葉に対して、「行く所なんてないけど、ただ着たいから着る。」と返すミセス・ハリスの生き方もとてもかっこいい。誰かを喜ばせるために着飾るのではなく、自分を幸せにするためにファッションを楽しみ、満たされていく彼女の輝く笑顔は忘れられない。
年齢を重ねると、自分のしたいファッションやヘアスタイル、メイクに挑戦することがはばかられるシーンに出くわすことが増える。しかし、この映画に出会って“ミセス・ハリスメンタル”を手に入れた私は、100歳になっても自分の好きなスタイルを貫いて生きていける。
いくつになっても自分のために夢を見る心を大切にしたい。パリの景色や、クリスチャン ディオールのドレスも素晴らしいが、自分の心に素直に、夢にまっすぐに突き進むミセス・ハリスが何より美しかった。
映画館を出る頃には心が幸福で満たされる、夢と共に生きる喜びを描いた最高の映画だ。(DIZ)