劇場公開日 2022年11月18日

「彼女を彼女たらしめたもの」ザリガニの鳴くところ TSさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0彼女を彼女たらしめたもの

2024年8月25日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

知的

難しい

タイトルとオープニングからは全く想像がつかない展開の法廷サスペンス。

主人公のモノローグと自然の映像をバックに過去から現在までを静かに回想していくが、どこかずっと緊張感を持ったまま見続けた。

彼を殺したのは誰か?一度伏線となるようなシーンがあった(初めて2人が櫓に登って足場を見たとき)。私はこのときから、主人公カイアに疑いの目を向けていた。
しかし、徐々に明かされる彼女の過去と法廷で明かされる事実から、彼女への疑いが小さくなっていくのを感じていた。
彼女は疑わしい。動機もある。しかし、客観的な、決定的な証拠がない。
判決がどちらに転ぶかわからない状況の中で、弁護士がとった最後の戦術は、「偏見を捨て、事実で判断してほしい」という陪審員と傍聴者への訴えであった。後から振り返ってみると、したたかなカイアの描いた戦術に弁護士がまんまと乗せられたということであろう。

衝撃のラストシーンはしかし、彼女が犯人であったという告白ではないように思う。ただ、被害者が身につけていた物を彼女が持っていたというだけである。
彼女は罪を犯したのか?それとも濡れ衣を着せられただけなのか?真実を知るのは彼女だけ。

我々は、彼女の生い立ち、境遇に同情しつつも最後に裏切られたような複雑な気分になる。
一体、私たちは何を見せられたのか・・・

彼女を彼女たらしめたものは、何か?
うっそうとして人を寄せ付けない湿地帯の自然、美しき植物や生物、彼女を捨てた家族へのの複雑な思い、社会の偏見への憎しみ、カイトとの愛、雑貨店の黒人夫婦の暖かさ、そして被害者チェイス・・・

言葉で表現しようとしても、捉えきれない。
湿地帯のように、捉えようとすると飲み込まれていく。
大好きな自然に囲まれた暮らしを取り戻した彼女の後半生は幸せだったのだろうか?誰も彼女の心の内を知ることはできない。

いいようのない思いが残る。

TS
Uさんさんのコメント
2024年8月25日

共感を有り難うございます。
「彼女が持っていただけである」。その通りですよね。
彼女は本当に殺したのか! そう問うこと自体が、無意味に思えてくるような不思議な感覚を味わいました。

Uさん
カールⅢ世さんのコメント
2024年8月25日

原作読みましたけど映画の展開どおりで、原作にきわめて忠実に作られていて、いろいろな疑問の解決にはなりませんでした。ミステリーです。

カールⅢ世