「『ミツビシバシ』」マルセル 靴をはいた小さな貝 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
『ミツビシバシ』
三菱車の言い間違いだが、かくもかなり可愛さが炸裂していて、その愛くるしさは近年稀にみるのではないだろうか 約2.5㌢の主人公という設定も自分が鑑賞した映画では最小であろう
"貝"というメタファーにしているが、手の不自由な男の子が、あるとき厄災により家族郎党を一片に失い、年老いた祖母との二人のみ生き残った世界で、逞しく生活を営む健気な人生をドキュメンタリー型式で描く作劇に仕上がっている作品だ
とても素直で、何事にも諦めない、そして明るさとウィット、皮肉を織込むクレバーな頭脳、ましてやエンターティナーとしての素質の垣間見えは、観客だれでも愛さずにはいられない演出にぐうの音も出ない
それを、実写とストップモーションアニメの融合という、かなり手間の入る手法により作劇してみせた、本当に頭の下がる作品である
ところどころのストップモーションの粗さも今作品に於いては却ってピッタリ当てはまるマジックでグイグイとストーリーテリングが動いていく 何より、主人公の閃きやアイデアを具現化するその頭の良さに感心することしきりなのである 決して四肢欠損は哀れむべき存在ではなく、だからこそアイデアの引出を多層的に用いる可能性を秘めている事実を今作品に於いて紐解いているのであると感じる 出来ない事があるから出来るようなアイデアを科学的に解き明かす ピュアな探求心と、それを育む家族を描いた作品としてこれ以上の題材はないのではと強く感じる 結局、一族郎党探しはネットでは探して貰えず、しかしチャンスとしてCBSドキュメント(60ミニッツ)《→学生時代、夜中酔っ払いながら良く視聴していた》 から取材と、同時に不幸な出来事として祖母への暴力が重なり、消極的に陥ってしまう主人公に、それでも孫を信じて奮起する祖母の姿勢に涙を堪えずにはいられないシークエンスは絶品である ハッピーエンドを演出しつつも、周りに与えた影響(撮影者の心の変化)も含めてエンタティナーとしての完成形を提示してみせた今作に多大なる賛美を贈りたい
ジャンクヘッド及びマッドゴッドのパペットは30㌢前後と比べると遙かにその小ささが解るはず 表現出来る幅は、目の動きと足 とはいえ、それ以上の演技をみせた今作に止まぬ拍手を送りたい、いや本当に・・・
所謂『嘔吐シーン』が、作品に演出される 邦画だとあまり直接的表現ではなく、"匂わす"程度なのだが、洋画は多い 今作のようなストップモーションアニメでもそれは織込まれる 車酔いで吐く度、気力の疲れ、そして途方のない世界の広さ、吐瀉してしまったことの恥ずかしさと申し訳なさ、それが、ない交ぜになりより一層の愛おしさを醸し出す 制作陣のこの心理を突いた演出には脱帽であり、まんまと乗せられた自分はその嵌められ具合に満足する・・・
※最初に断っておくが、それを望んでいたこともなければ、期待していたことでもない事を据え置く
自分の祖母もことある毎に、アドバイスをして貰った 悩みばかりの自分を心配したのだろう、又は長男としての不甲斐なさに何とか立ち直らせたかったのだろう、本当に色々と親身になって元気着けてくれた そして尽く、自分はマトモに訊かなかった 勿論壮絶な人生を重ねた祖母には批判など何も無い 当時、こうして生きてこられたクレバーさと運の強さに尊敬こそすれ、バカになぞ出来るはずもない でも近視眼的な思考に囚われた自分は、かなり祖母を傷付けてしまった記憶しか残っていない その悔恨が、今作を観賞してまざまざと見せ付けられたのである 本当にごめんなさい、ハンメ・・・