「いま日本の社会に必要な思想、考え方、態度、全てが詰まっている」そばかす SSYMさんの映画レビュー(感想・評価)
いま日本の社会に必要な思想、考え方、態度、全てが詰まっている
日本って異常な社会だと思う。
有名人が不倫をすれば朝から晩までその話題でもちきりだし、ちょっと前までは皇族の結婚がどーとかを何年もマスメディアは報道し続けていた。今でも、女性週刊誌の誌面を賑わせ続けている。
有名人が不倫するとあんたに何かしらの損得が発生するの?
そんなに他人のセッ○スに興味あるの?
アホちゃうか?
異常ですよ。
恋愛という個人的な事柄に、当事者以外が口を出すこと。恋愛や結婚をすることがしないよりも是とされる通俗道徳。それらの醜悪さ、グロテスクさをこの作品は克明に描きだしている。
特に妹の睦美が「お母さんの気持ちを考えなよ」と佳純を諭すシーンは鳥肌がたった。家族という身近な存在でも、個人の心情を理解することはできない。母や妹の佳純への無理解さは、家族という枠組みに特別な重きを置きがちな日本社会への痛烈な批判となっている。
反対に、佳純と父は互いに干渉しすぎず、無関心でもない。良好な関係を築いている。それは、お互いが理解できないものを理解しようと無理をしていないからだ。互いにわかるところだけ、わかり合う。それでいいではないか。
ときたまコミカルなシーンが挟まれるが、それがクドくない。まさに映像における「緊張と緩和」が非常に高いレベルで実現している。
中学時代のエピソードについて、単純に腹がたっただけだったと真帆がぶっちゃけるところもいい。
義憤や同情ではなく、単純な怒り。そういうプリミティブな感情の発露こそ、いまこの時代に必要なのではないか。怒りを通して、人は連帯することができる。むしろ、怒りこそ連帯に最も必要な感情ではないか。怒りという感情を悪だと決めつけて、抑え込むのが是とされる風潮を感じるが、我々はもっといろんなことに怒っていいし、怒るべきだと思う。
恋愛感情をもたないが、大好きな友達の真帆の結婚を心から祝福する佳純は美しかった。式のシーンもそうだが、同居解消した後に喫茶店を出て別れるシーンもよかった。
とにかく佳純の生き方は美しい。美しく生きるってことがなんなのか、映画を通して教えられた。
現代社会に対して批判的な作品内容だと思うが、鑑賞後は爽やかな気分に包まれていた。
玉田真也監督をはじめとしたスタッフのメンバーにこれからも注目していきたい。そう思わせる作品だった。