「三浦透子さん主演。アロマンティック・アセクシュアルの悲しみ。多くの人に見てほしい。」そばかす 風の又三郎さんの映画レビュー(感想・評価)
三浦透子さん主演。アロマンティック・アセクシュアルの悲しみ。多くの人に見てほしい。
30歳の蘇畑佳純は物心ついた頃から今まで誰にも恋愛感情を抱いたことがない。他者に恋愛感情を抱かないという恋愛的指向は彼女の生まれながらの性質で一生変わらない。つまり彼女は生涯恋愛をしないのだ (友情や家族愛、人類愛はある)。
ここで大事なことは、彼女のまわりに魅力的な人がいないとか、たまたま好きな人に出会わないというコトではないうことだ。
誰かにときめいたり、ドキドキしたことがないということが私には理解できないが、理解する必要はない。彼女の恋愛的指向をそのまま認めるだけだ。すると彼女の苦しみ、諦め、悲しみが伝わってくる。
映画では描かれないが、友だちの恋バナも、小説、漫画、ドラマの恋愛もわからない。その事を誰かに伝えても「佳純もいつか恋をすれば分かるよ」と言われるだけだ。人は誰でも恋をするものだと思っている者ばかりだから、誰も自分のことを分かってくれない。今はわからないが、佳純自身もそう思っていただろう。
「自分はみんなと違って「フツー」じゃないんだ、言っても誰も分かってくれないんだ」 と、いつしか諦めてその事を人には言わなくなってしまったのかもしれない。
「そうじゃないんだ、そのままでいいんだヨ、ガンバレ佳純ぃー」とスッカリ応援モードに突入。映画を見てて完全に彼女に感情移入してしまった。
映画の後半では、男の人と恋愛しないお姉ちゃんはレズなんでしょと妹に言われてしまう。思わず心の中で「ちがう~ ( `Д´)/ 」 と叫んでしまった。
親しくなった男性が彼女に恋愛感情を持ってしまい、彼女にそれを伝えるのだが当然彼女には全く理解できない。彼女はポカンとしてしまう。男のほうは彼女も同じ気持ちだと思っていたのに思わせ振りだったのかと思い怒って絶交してしまう。
突然、大好きな彼との友情が壊れてしまい、驚きと悲しみで呆然としてしまう。私も悲しみで胸が一杯になってしまったヨ。 決して 「女性と男性に友情は成立するか?」 という話ではない。
お父さんと佳純が2人でいる場面がとてもいい。お父さんはただそこに居てよりそい話をするだけだ。それなのに佳純の安心感と信頼感が伝わってきて、映画の中で唯一ホッとする場面だ。いつか娘がまたチェロを弾くかもしれないと、ずっと手入れをしていた話なんて泣かせるじゃないか (ノ_・、)
ラスト、あまりの嬉しさに私も佳純と一緒に走りだして叫びたくなったヨ。画面も揺れに揺れる(こういう分かりやすい演出は私でも分かるからありがたい)。
だって佳純は自分だけが恋愛感情・性的感情を持たない人間で、それは他人には絶対理解できないことと思っていたのに、自分と同じ人間がいてありのままの自分を認めてくれるんだぜ。そんなこと知ったら小躍りして走り出したくなるだろう? これで今までの生きづらさが少しは軽くなってほしい。
*こういったカテゴライズの功罪があるような気もするが、今回は佳純が安心したようなので取りあえずヨシとしようということで宜しく(^^)
LGBTを解説する文脈の中で、恋愛感情がない人と性欲がない人がいることは知っていたが、今年(2022.1)のNHKドラマ 「恋せぬふたり」 でそれを主題にした物語を見て感動し、こんなにも大変なことだったのかと認識も新たにした。
アロマンティックとは、恋愛的指向の一つで他者に恋愛感情を抱かないこと。
アセクシュアルとは、性的指向の一つで他者に性的に惹かれないこと。
どちらの面でも他者に惹かれない人を、アロマンティック・アセクシュアルと呼ぶ。
【追記・2023/1/16再鑑賞】
お見合いで知り会った男友達との別れの場面。1人部屋に残された佳純は驚きと悲しみで呆然と立ち尽くす。「なんで、なんで、なんで」と同じ言葉が頭の中で繰り返される。
2度目の鑑賞で、どうなるか分かっていたのに私も驚きと悲しみで呆然となった。レビューを書いてる今でも、立ち尽くす佳純を思い出すと悲しくて泣きたい気持ちになる。
佳純は男友達に、自分が誰に対しても恋愛感情を抱かないこと、誰に対しても性欲がわかないことを伝えた。だけど彼にはそれが信じられない。もし彼がアロマンティックとアセクシャルという言葉を知識としてだけでもいいから知っていたら、2人の友情は続いてたかもしれないと思わずにはいられない。
分類し区別することは無意味でもあるし弊害もある。だけど今はアロマンティックとアセクシャルという分類を多くの人に知ってほしい。メリットは、自分以外にも同じ人がいることを知る安心感である。あと佳純たちの友情が続いたかもである。
私はどちらも理解できないが、否定はしないという考えだ。
2022/12/25(日) 高島屋キノシネマ
2023/. 1/16(月) 〃