「途中までは面白く見たのですが‥」映画 イチケイのカラス komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
途中までは面白く見たのですが‥
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい)
この映画は主に大きくは以下の3つの事件から成り立っていると思われます。
1.海上自衛隊のイージス艦と民間貨物船の衝突事故と、貨物船船長の妻の傷害事件
2.シキハマ(株)日尾美工場での工業排水による汚染問題
3.シキハマ(株)日尾美工場のトラック荷物と後続自動車との事故→工場内の汚染土壌の運び出し事件
ところで私はこの映画を途中まで面白く見たのですが、それは坂間千鶴弁護士(黒木華さん)が月本信吾弁護士(斎藤工さん)と出会い、2のシキハマ(株)日尾美工場での工業排水による汚染問題を解明する場面が中心でした。
この2のシキハマ(株)の日尾美工場での工業排水汚染を解明する場面は、後に月本信吾弁護士がシキハマ(株)日尾美工場の木島昌弘工場長(平山祐介さん)から金を受け取り、坂間千鶴弁護士を裏切った時も、坂間千鶴弁護士と月本信吾弁護士との間にドラマがあり、面白さがあったと思われます。
坂間千鶴弁護士の方に観客としての共感を強く持ちながらも、月本信吾弁護士の弁護士の理想だけでは人は救えないとの想いも、過去に弁護の失敗で妹を死なせてしまった彼の経験からも説得力がありました。
つまり、この映画の面白さの根幹には、司法(弁護士)の理想を追求する坂間千鶴弁護士と、現実に生きる月本信吾弁護士との、本質的な対立があったと思われます。
ところが何者かに月本信吾弁護士が殺されてから後は、坂間千鶴弁護士との月本信吾弁護士との対立のドラマ性が無くなり、急速に映画の面白さを失っていったように思われました。
後に、シキハマ(株)日尾美工場での工業排水汚染を隠すために、3の、日尾美工場がある日尾美町の人達が町ぐるみで工場内の土壌を入れ替えていたことが判明します。
ところが、坂間千鶴弁護士と日尾美町の人達とは、最後の法廷でこの町ぐるみの真相が明らかにされるまで対立はありませんでした。
つまり唐突に日尾美町の人達による土壌入れ替えの犯行が浮かび上がり、最後は小早川悦子医師(吉田羊さん)らの日尾美町の人達の法廷での涙の告白があるのです。
しかし残念ながら、この日尾美町の人達の法廷での告白は、田舎の町が工場とともにあり汚染を除去する理想では町の生活が立ち行かなくなるという本質的な話をしていながらも、それまでそれに関する(例えば坂間千鶴弁護士との)対立を映画では描いてこなかったため、唐突に浅いその場での告白に思えました。
仮に、日尾美町の人達+日尾美工場の想いも深く映画で描きたかったのであれば、映画の初めから日尾美町の人達と坂間千鶴弁護士の対立を(露骨でなくても)描いておく必要があったと思われます。
この最後に唐突に法廷で明らかにされる日尾美町の人達の告白は、映画にとってはかなり取って付けたような印象は否めませんでした。
1の海上自衛隊のイージス艦と民間貨物船の衝突事故に至っては、鵜城英二防衛大臣(向井理さん)が、入間みちお裁判官(竹野内豊さん)を、亡くなった民間貨物船の島谷秀彰船長(津田健次郎さん)の妻の島谷加奈子(田中みな実さん)による傷害事件の裁判担当から外すぐらいしか対立がありませんでした。
映画が終わってみれば、1の海上自衛隊のイージス艦の事故は、映画の事件の本質である2のシキハマ(株)日尾美工場の工場排水汚染や、3の日尾美工場からの日尾美町の町ぐるみの汚染土壌運び出し事件とは、直接の関係性はありませんでした。
1の海上自衛隊のイージス艦の事故やまつわる傷害事件は、こちらも入間みちお裁判官との対立は思わせぶりで、映画にとってはやはり取って付けた印象は否めませんでした。
この『映画 イチケイのカラス』の途中までの面白さと終盤の失速は、坂間千鶴弁護士(あるいは入間みちお裁判官)との映画でのしっかりとした対立を月本信吾弁護士とでしか描けていなかったのが問題の理由だと思われました。
最悪、1の海上自衛隊のイージス艦の事故の方は思わせぶりなフェイクの対立だったとしても、3の日尾美町の町の人達との対立は映画の初めから月本信吾弁護士との対立と合わせて描いておく必要があったと思われました。
それがなかったためにこの映画は途中から面白さが失速してしまったと思われました。
2時間ドラマであれば後半の取って付けた解決もあり得るかもですが、映画としてはこれは頂けないと正直思われました。
映画で描かれている題材は(賛否はあっても)面白さのある題材だっただけに、演技の出来る豪華な俳優の人達が揃っていただけに、僭越ながら残念には思われました。
ドラマのファンだったので映画も楽しみでした。しかし映画館では観られず先日レンタルにて鑑賞しました。感想は貴殿と同じです。私が感じていたことを見事に言語化して下さってます。
ドラマはファンタジーの味付け濃いめでありながら、物語に感情移入できる合理性が担保されていたのに対して、映画は貴殿の御説の通り後半から謎の違和感によって感情が置き去りにされました。
結局、謎解きもどんでん返しも中途半端に感じられ、ラストの黒木華さんの泣く演技では完全にシラケてしまいました。
総合点では及第だと評価できますが、後味の悪さは本当に残念でした。