「閉ざされた古民家を舞台に繰り広げられる曲者達の騙し合いから目が離せません!」NOT BEER 日吉一郎さんの映画レビュー(感想・評価)
閉ざされた古民家を舞台に繰り広げられる曲者達の騙し合いから目が離せません!
かつて、死者に踊らされる人々の様をこれほど、幸福感溢れる姿で描いた作品はあったであろうか。アルフレッド・ヒッチコック監督作品「レベッカ」、市川崑監督作品「犬神家の一族」と、死者に踊らされる人々の様を描いた作品と言えば、こうした作品が思い起こされ、大半がサスペンススリラー映画である。「NOT BEER」は死者が登場人物達を翻弄しながらも、観客を幸福感溢れる気持ちへと誘因する稀有で特筆すべき作品である。
二人組の詐欺師(玉城裕規、相馬理)が一人暮らしの老女(金子早苗)を騙すのに成功し、約束した日に集金に出かけると、老女の通夜が孫の早妃(永瀬未留)により執り行われていた。型通りの参列を済ませて帰ろうとすると、悪い事は重なり悪天候に阻まれて帰れなくなってしまった。すると、参列していた弁護士(伊藤慶徳)が「財産を通夜の日に最後に残った人に相続する」という老女の不可解な遺書を読み上げる。ここに、居残った二人の詐欺師、弁護士、早妃、合わせて四人のサバイバルゲームが始まる。実は四人それぞれには秘密があり、徐々に秘密が明かされつつの騙し合いが朝まで痛快に繰り広げられていく。
元々は舞台上演された作品を、舞台の脚本に沿って忠実に映画化した作品である。人里離れた場所にある小綺麗な古民家をロケ地に選んで撮影した映像からは、古民家の木造の柱や畳の匂いの漂うかの雰囲気が醸し出されている。その小綺麗で落ち着いた閉ざされた空間の中、四人の曲者俳優陣により、先の読めない展開のドラマが、終始緊張感を保ちながら繰り広げられていく様は痛快である。舞台作品の映画化でありながらもロングショットが少なく、幾つもの細かいショットが絶妙に編集された結果、流れるかのようなスムーズな映像を構築しているのが特筆される。しかも、撮影は順撮りで1台のカメラで撮ったとのことであり、監督の中川寛崇の撮影、編集の技量の高さが伺われる。
ノミネートされた2022年の田辺・弁慶映画祭では、残念ながら無冠に終わったが、いよいよこの5月に劇場公開される。多くの観客に観て感じていただきたい作品である。