「私達はのび太になりたかった」映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア) 終焉怪獣さんの映画レビュー(感想・評価)
私達はのび太になりたかった
今作も紛れもなく傑作の部類に入るクオリティでした。
改めて思うのが、「私達はのび太になりたかった」と云う気持ち。
私にも多くの作品で憧れのキャラがいます。
容姿だったり、知的だったり、強さだったり...
誰しも自分が持ち合わせていない能力に惹かれる。
対してのび太はどうだろうか?
大概の人々は、のび太より多くのスキルを持ち合わせている。
そして劇中のおっちょこちょいな行動もあり、
私達は無意識にのび太を下の存在と見なし鼻で笑う。
だけど大人になった今なら分かる。
私達は本来、のび太にならなければいけなかった。
相手の立場になり、相手の気持ちを理解し、
共に笑い、共に泣いてあげる...
意外と多くの大人が持ち合わせる事が出来なかった人間性。
のび太には、その能力がずば抜けて高い。
パラダピアライトがのび太に効果が無いのも納得だ。
共感性とは元を辿れば想像力に行き着く。
「こう言ったら相手はどんな気持ちになるのか?」
「こんな時、相手はどう思うのか?」
相手の立場になり考える=想像力だ。
だからこそのび太は「ユートピアはどこにあるんだろう?」と本気に考えて探そうと思った。
それは単純だからとか純粋だからとかそういう話ではなく、共感性と想像力を併せ持つのび太だからこそ考えられる発想だ。
今、社会は多様性を尊重してる。
それ自体は素晴らしい事ではあるが、本心を言えない・言ってはいけない風潮になっている。
多様性を推しすぎた余り、人々は思考を止めてしまっている部分もある。
正に言論統制であり、パラダピアと同じだ。
この作品には、そんな押し付けがましい多様性はない。
とても自然で当たり前の思いやりがあるだけだ。
思想性のある作品なのに自然に表現し、
かつSF作品として、エンタメとして、
見事にバランスが取れている。
ドラえもんと言えば時間ロジックだが、
冒頭の虫や天気雨の伏線回収も簡単過ぎず、難しすぎず素晴らしい調整だった。
クライマックスの4次元ゴミ袋内で暴走するパラダピア。
空中でのドラえもんとソーニャの会話は、本当に心に響いた。
「らしさ」が世界を救う。
正にその通りだった。