「俳優の演技は素晴らしいが、構成が。。」エゴイスト 菜野 灯さんの映画レビュー(感想・評価)
俳優の演技は素晴らしいが、構成が。。
敢えてワンカメで、パンやチルトを多用し、特にパンはざっと横に振るのも目立った、予算のないドキュメンタリーのような撮り方をしたのは、一人目線でその場面を覗いているようなリアルさを狙ったと思えた。が、観てる方としては、自分の意志とは関係なく、視線が移動させられることが続くため、疲れる、いわゆるカメラ酔いする。ほとんどの場面がこのワンカメだったが、多用しすぎだと思った。じっくり、ツーカメで落ち着いたフレームワークの場面も欲しかった。
さて、ゲイを鈴木亮平が演じるということで観てみた。鈴木亮平の演技は安定のすばらしさだったが、映画の構成、脚本として、ゲイ同士の感情のぶつかり合い、葛藤、そういった押し引きはわりと平坦だった。同じゲイを主題にしたものでは「his」(今泉力哉監督)はゲイ同士の感情の揺れを描いていて、こちらの脚本の方が好みではある。
本作は、突然、相手が死を迎えて、その遺族の母親の面倒をみることで、その本気さを感じることができるものの、ゲイ同士の葛藤から、男性と母親の関係性の展開が半分を占める。
盛り上がりが前半部にあった感があって、後半に向けて盛り上がる展開ではなかったのは残念なところ。話し自体はいい話しなんだけれど、映画の構成としての盛り上がり、葛藤の起伏という点では物足りない。
それに死をもって別離を描く展開にもっていくのは、脚本構成として安易な気もする。生ある者同士の葛藤でもってエンドロールまでもっていくにはどうしたらいいかをもっと考えてほしい。