「いろいろと描写不足ではないかというそしりは免れないものの…」カムイのうた yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
いろいろと描写不足ではないかというそしりは免れないものの…
今年45本目(合計1,137本目/今月(2024年1月度)45本目)。
(ひとつ前の作品「サイレントラブ」、次の作品は「ミッション・ジョイ 困難な時に幸せを見出す方法」)
ナナゲイさんで見てきました。満席かつ立見席も満席(舞台挨拶がある回は概してこうなりやすい)というのが印象的でした。
史実通りの展開を取りつつもなぜか氏名は変わっている(ご遺族の方の許可をいただけなかったか、取れなかった?)ものの、実質的な意味において史実ものという解釈でよいのだろうと思います。
その立場に立つと、この映画で述べたかったことであろう「当該主人公の生い立ちから没するまでの功績など」に関しては完全に描写されているものの、それ以外の部分、つまり、アイヌ民族に対する直接的・間接的差別についての描写がなく(なお、この映画はなぜかしら国土交通省が後援という変な映画)、何に気を使ったのか(配慮したのか)というのが不明な部分が多々あります。
もっとも「当該主人公の生い立ちを描く」という観点で見る限り傷はないに等しいので、どう見るかは個々個人かなり判断が分かれると思います。ただ、数少ない「アイヌ民族を扱う映画」として、こうした「直接・間接的差別の実態」についての描写が少なかった点については、それもそれで配慮を欠いているのではなかろうか…といったところです。
採点に関しては以下まで考慮しています。
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(減点0.3/映画の描写ではアイヌ民族がなぜ北海道(蝦夷)に住むようになったのか理解しがたい)
・ この描写では、あたかも明治維新以降の富国強兵の一環で強制移住させられた等の解釈が取れそうですが、実際にはかなり前から在住しており、和人(日本人)との戦闘もそれよりも前には起きていることです(コシャマインの戦い(1457)、シャクシャインの戦いほか)。
(減点0.2/北海道旧土人保護法に対する解釈が何も存在しない)
・ アイヌ民族に対する直接的、間接的差別は色々な形で存在しましたが、間接的差別として存在した法として「北海道旧土人保護法」があります(完全廃止されたのも平成1桁というかなり最近のこと)。
この法は差別的な内容を含んでいたのみならず、そもそも論として日本民法と矛盾するような謎の規定が存在し、この部分については何らか触れてほしかったです(後述)。
(減点なし/参考/舞台挨拶でのトークショー)
・ この映画は東川市(旭川市に接する)の協力があり、その関係者の方もトークショーに出ておられたのですが、限られた時間(15~20分)という中で細かい話をするのは難しいとしても、東川市への移住促進の話やお誘いなどをするのは「場違い」に思えます(1時間もあるなら話は別だが、こうした理由もあいまって「質問コーナーがなくなる」という状態になるのは変)。
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(減点なし/参考/北海道旧土人保護法と旧民法(帝国民法)の矛盾)
・ 同法は、建前上はアイヌ民族に対する差別意識、差別的政策があった一方で、実際にそれを推し進めた結果、土地を失ったり経済的に詰まる当事者が続出したためにできた法律です(明治32年成立)。
この法は土地の無償給与などを定めた法ですが、一方で当事者がそれを売ったり賃貸したりという「利益をあげる行為」を防ぐため、民法の物権の大半を除外する特別法の位置づけで「留置権、先取特権の目的となることなし」(原文のまま、現在の漢字表記に修正)といった記述があった法です。
しかし留置権、先取特権は「法定担保物件」といって条件を満たせば当事者の意思と関係なく成立するものです(この意味で質権や抵当権と異なる)。当然、当時のこんなマニアックな行政法規を知っている国民などごく少数なので、当事者との土地のやり取りは一定数存在したと思われるところ、同法に触れます。この点、特別法であり強行法規と解される同法が優先適用されるのか、当事者との真の同意があればそれが優先されるのかが怪しく(判例はまるで存在しない)、また、当然このようなマニアックな行政法規を知っている人が当時どれだけいたのかも怪しいため、錯誤無効(当時。現在は取消し。95条)が(条件を満たせば)主張できるのか等、民法上怪しい点がかなりあり、こうした点に何ら触れていない点は、アイヌ民族が「経済的差別をどれだけ受けていたのか」という点が不明であり、こうした点に140分近い尺を取りつつ何も触れていないのは、ちょっとそれもそれでどうなのか、という気がします。