「白黒ついたら人間苦労はしない」僕の巡査 ワッフルマンさんの映画レビュー(感想・評価)
白黒ついたら人間苦労はしない
1950年代は同性愛が犯罪と同じ扱いにされていた。
ここから既にショッキングではあるものの、同性愛者…厳密に言うと、ゲイとバイセクシャルの男(あんまりゲイっぽくなくてバイだと感じた)、それに挟まれた女性との三角関係。もう既に嫌な予感しかしない。
泥沼必至。
トムもバイセクシャルなりに仕事の関係もありどっちつかずでマリオンを悩ませ、パトリックも既婚者となったトムに対して縋りついた。マリオンは教師なりに同性愛を受け入れるわけにはいかない(同性愛は道理に反するゆえに反抗もしたし、その意思を貫いた)。
トムが本当に罪だな…と思った。でも、これが人間なんだろうと思った。
そして美術館で三人は出会うわけですが、そこでは荒れ狂う海の絵画を三人で見つめる(その前に既にトムとパトリックがその絵を見つめてていた)。その荒れ狂う海は、三人の関係を物語っているのだろうと思った。終始絵画の景色と晩年三人が過ごしている景色。それは常に怒涛のようで、息苦しいものだったろうと思う。
友人のカミングアウトが衝撃的で、かつマリオンの態度の変わり方が同性愛者に対する当時のリアクションを物語っていて切なかった。こうなるのか、と。三角関係内の人間外の人間が物語った方がよほど刺さった。
トムは結局マリオンを愛することを選んでいたけれど、晩年のショップを外から眺めていると親友同士で歩いている男性同士をみて「いや、あれは愛し合っているはずだ」と確信していたことでしょう。もしかしたら、自分もパトリックとこうなっていたかもしれないと。
(以下雑多に)
・トム…マリオンは好き(女で)、パトリックは男の恋人として選ぶなら好き。それ以上でもそれ以下でもない。特に何も考えていなさそう。パトリックのことを忘れようと逃避している。
・パトリック…トム一筋。
・マリオン…トムは良い人。晩年までトムから離れることはできなかった。愛していたし、何よりも離れたくなかった。トムのことを大切にしたい。パトリックは自らが陥れたゆえに罪の意識から共に生きることを決めた。それで罪滅ぼしのつもりでいるが、余計に彼女自身は苦しんでしまうことになる。
マリオンの立ち位置が不憫でならなかったが、彼女自身も自らの性格に白黒つけることができなかったのだろう。パトリックに向き合わないトムに苛立ちを覚え、トムではないとまともに会話すらしてくれないパトリック。自分の居場所やこれからを思うと胸が詰まったことだろうと思う。逃げ出すことはできただろうが、トムに引き留められつつ、そこでも踏ん切りがつかなかったのだろう。
最後のマリオンが車から手を出して風を掴んだシーンは、ある意味真の開放だったのだなと感じた。
好きな人を「好きだ」と少しずつ言えるようになった時代に感謝しつつも、これからも好きな人を愛せる気持ちを大切にできる時間や場面が増えていくといいな、と思う。