「他の方が書かれていないところを中心に…(採点内容でネタバレを含みうるので注意)。」Dr.コトー診療所 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
他の方が書かれていないところを中心に…(採点内容でネタバレを含みうるので注意)。
今年366本目(合計641本目/今月(2022年12月度)19本目)。
今週は本数自体がそもそも少なく、本作かアバターかのどちらかに多く入りそうな気がします。
さて、こちらの作品です。
元のドラマ版?等を知らなくても、映画自体としては成り立っているしわかりやすいし、問題提起型と解するなら、それは他の方が書かれている通りのへき地医療の在り方、それを言い換えたとき、医師側の職業選択の自由(営業の自由(場所をどこにするかを含む)/憲法22)といった問題があることは容易にわかります。
ただ、映画の範囲内ではわかりにくいしおそらく想定していないと思いますが、さらにすすめると次のような問題点がまだ「リアル日本においては」残っています。
これらのことは、一応にも法律系資格を持っているとわかってしまうので…。
採点対象としては以下の通りです。
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(減点0.3/一部の描写の説明が足りないなど)
・ 以下について述べるようなことが映画内で問題提起されておらず、かつこれらのことは、上記のそのわかりやすい「へき地医療の在り方」以上にリアル日本では普通に起きることがらです。映画内で描かれているのに問題提起されていないのは、時間の関係や、そもそも一定の知識を前提にするなど仕方のない面などあるかなと思いますので、引いてもこの程度です。
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(参考/論点1/たまたま発見した重傷者を医師が発見し治療した場合どうなるか?)
・ そもそも、病院にいって治療を受けて健康保険証等をみせ、3割負担等で治療費を払うのは、その前提に医療行為を受けることそれ自体に「準委任」の契約的性質があるからです。
しかし、クリニックを一度離れてたまたま自宅に戻るときに倒れている人がいることを医師が発見しても、その人を救助したという場合、この場合はそもそも「契約関係」がないため、ここは事務管理(697条以下)の扱いになります。
そして、事務管理では費用は請求できますが、報酬は請求できません(報酬に関する規定を事務管理では明示的に準用していない)。この例、さらに「財布を落としたので警察に届け出た」、あるいは、「迷子の子がいたので、一緒に近くの交番まで行った…」、どれもが「お互いの助け合いの精神」で成り立っているため、それに報酬を与えることを想定していないからです。
費用は請求できても報酬は請求できないし、自己の意思に反する事務管理の場合、さらに請求できる範囲が狭まります(702条)。このため、最悪は「最低限の分しかもらえない」という事態も発生します。しかしそのために、医師が通りがかった人を放置することも普通しませんので、この場合どう扱うか?というのが一つの論点になります。
これは判例も何もありませんが、特に緊急事務管理(698条/身体への危害を免れさせるために行った行為)に関しては、特にその性質上、「医師その他の医療従事者が緊急的に救助を行う」等、想定される場面が限定的なため、その費用に通常かかるであろう金額を特例的に含めうるとする考え方等、いくつかの学説が対立します(判例は何も存在しない)。
(参考/論点2/意識不明な人を背負って治療をうけさせたらどうなる?)
・ 映画内では最初の1~2分あたりに出るところです。要は、
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Aは、道で倒れているBをたまたま発見して、Bを背負って医師Cのところにいって治療を受けさせた。Cは誰に対して請求できるか?
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…という問題です。
AとBの間には事務管理が成立しますが、事務管理の中に当然代理権まで含まれているわけではありません。したがって、AがCとの間で準委任の性質を持つ診察を受けさせるなどしてしまうと、それは単に(表見代理が成立しなければ)無権代理にしかなりません(最高裁昭和36.11.30)。 ※ 特殊な例外はあります。
すると、一応Cの治療でBが元気になったとして、CがBに費用(通院したとみなして、普通にかかるであろう負担額)を請求したとき、「そもそも私はAに(何かあったらどこそこ病院に連れていけなどという)代理権など与えていない」ということは可能で、その場合、今度はAとCとの問題が勃発していまいます(映画内では適当にぼかされている)。
このように、事務管理は「お手伝い・おせっかい、あるいは、助け合いの精神」のもとで成り立っているため、個々難しい問題を抱えています。毎日のニュースで「川でおぼれている女性を助けて表彰状…」といった問題も、裏ではこうした特殊な論点(費用は請求できても、報酬も賠償(※1)も請求はできないし、勝手に第三者を巻き込むと無権代理になるなどetc)が裏で動いていて、「助け合いの精神」で成り立つ事務管理が、「そもそも助けなんてもとめていなかったのに…」ということもあり(例えば、財布は落としたが、財布の中には何も入っておらず、財布自体にも価値はない等。忙しいのに警察などから電話がかかってきて「財布落としましたよと」言われても、どうでもよかったのに…と思ってしまう等は、よくあることかなと思います)、感情のすれちがいからトラブルになりがちなのがこの事務管理特有の論点です。
(※1) ここでいう「賠償」というのは、例えば「泳いでいる女性を助けようとして、あなたは助かりましたが、私の着ていた衣服は全部だめになってしまいました」という文脈における、その「賠償」の請求ができない、という意味です。
結局まとめると、
(論点1) 医師が通常のクリニックで行った診療と、クリニック外でたまたま倒れている人を見つけて治療した場合では、適用される条文が違うため、医師が損をするケースが存在する
(露店2) 助け合いの精神で成り立つ事務管理が、本人のためと思って医師を呼んだり第三者を巻き込むと(ほか、よくある例が、「台風がきてガラスが破れていたのでガラス業者を呼んだ」とか「水道があふれ出ていたので水道業者を呼んだ」とかというもの)などすると、その第三者との間との間で面倒な構成になってしまう
…というところです。
こうした問題はもちろん、この映画で描かれる2事例のように医療現場にも出てくることがあるので、そこをどう扱うか…という問題提起は欲しかったです。