「おとぎ話かと思いきや地に足が着いた堅実な公共土木事業ドラマでした。」金の国 水の国 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
おとぎ話かと思いきや地に足が着いた堅実な公共土木事業ドラマでした。
商工業が盛んで様々な国との交流がある豊かな国アルハミドと水と緑に溢れた貧しくも素朴な国バイカリ。隣り合った両国は幾度となく戦争を繰り返した後100年に渡って国交を断絶していた。両国は和平の約束を交わしその証としてアルハミドは国で最も美しい娘を花嫁として、バイカリは最も賢い男を花婿としてお互いの国に送り合うこととする。バイカリとの国境近くに住むアルハミドの国王ラスタバン3世の末娘サーラはバイカリからの花婿を押し付けられるが彼女のもとに現れたのは男ではなく子犬。それはアルハミドとの和平をよしとしないバイカリの挑発だった。このことが国王に知れると戦争になってしまうと危惧したサーラは子犬にルクマンと名付けて育てることにするが散歩中にルクマンはバイカリの国境を越えてしまう。ルクマンを追って初めてバイカリに足を踏み入れたサーラは森の中で失業中の建築士ナランバヤルに出会うがサーラは彼が族長オルドゥにアルハミドからの花嫁を押しつけられた男であることも、彼のもとに現れたのが子猫だったことも知らず・・・。
おとぎ話的な王道ラブストーリーかと思いきや全然骨太で、実は王都の周りには砂漠が広がり水の枯渇が深刻なアルハミドの窮状とラスタバン3世治世下で二分する政局をすぐに見抜いたナランバヤルがサーラの花婿になりすまして治水事業を動かそうとする公共土木事業ドラマ。胡散臭い人間達がしのぎを削る世界で飄々と振る舞うナランバヤルの活躍は爽快で、資源や先端技術を巡って国同士が争ったり牽制し合うこの世界では治世もまたファンタジーたり得ることを示した作品。そういう社会的な希望が込められた寓話でありながら、様々な登場人物の表裏を簡潔かつ丁寧に描写しているので人間ドラマとしても抜かりなし。『プリンス・オブ・ペルシャ』でもプレイしているかのようなダンジョンアクションもちゃんとあるので2時間弱の尺に美味しさがぎっしり詰まっています。
声優陣がさりげなく豪華で、戸田恵子、銀河万丈、木村昴、沢城みゆき等のベテラン声優が土台をしっかりと支えている中でナランバヤルとサーラを演じた賀来賢人と浜辺美波がのびのびと演技しています。賀来賢人が声優としても全然巧いことにもちろん驚きましたが、やはり浜辺美波が体現する王女サーラのキュートさが凄まじすぎて鼻の奥がツーンとしました。