「弛緩した画面の果てに、その瞬間はふいに訪れる・・・」レジェンド&バタフライ 慎司ファンさんの映画レビュー(感想・評価)
弛緩した画面の果てに、その瞬間はふいに訪れる・・・
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弛緩した画面が連鎖する悪夢の果てに、その瞬間はふいに訪れた。
本能寺の奥まった一室に追い込まれた木村拓哉扮する信長はふと、足元の床板に隙間があるのを発見する。
嘘のような簡潔さで燃え盛る寺を脱出した信長は、凡庸な画面の中でしかしそれなりに軽やかな疾走を描きつつ、危篤の妻・濃姫の元に帰還する。
「帰ったぞ!」
当然のように二人は、南蛮船の発とうとする波止場へと瞬時に移動する。
船に乗り、海の向こう、誰も自分を知らない所へ行ってしまいたい、と劇中しきりに繰り返されたその伏線が回収されようとしているというつまらぬ些事は無論忘れて、呆気なく日本を脱出した二人の行方に、3時間の失明から突如覚醒した高揚感が恥ずかしいほど抑えがたい。
航路は荒れ、大波を被る船の中で、二人は初めて対等に助け合い、生まれ変わりを祝して抱擁する。
と、信長であるはずのその男の濡れた顔に、なんと前髪が張り付いている。
ほんの10秒ほど前までは、確かに禿げ上がっていた男の頭頂は今、豊かな毛髪で覆われているのだ・・・!
かくして、二人は信長と濃姫という頽廃した役柄から解放され、木村拓哉と綾瀬はるかという名誉ある地位を回復しつつ、この悪夢の3時間から観客を連れて出鱈目な脱出を敢行する。
この出鱈目さこそ、我々がひたすらに切望した画面であったはずだ。
絶望的な退屈と不快を過去のものとして忘れ、今この瞬間の荒唐無稽に破顔一笑を抑えられないのは、中途半端に埋まった客席の中で自分一人だけであるはずがない。
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