「うつけとマムシの娘、愛と夢の果てに、天下(大ヒット)を勝ち取れ」レジェンド&バタフライ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
うつけとマムシの娘、愛と夢の果てに、天下(大ヒット)を勝ち取れ
木村拓哉が織田信長を演じる。
妻・濃姫に綾瀬はるか。
監督は『るろうに剣心』の大友啓史。脚本は現NHK大河ドラマ『どうする家康』の古沢良太。
製作費は20億円以上。
東映創立70周年記念作品。
ぎふ信長まつりも大いに賑わした、話題に事欠かない話題超大作。
ぎふ信長まつりからの盛り上げ方はかなり気合いの入ったもの。
話題や莫大な製作費を掛けた事もあるが、昨年『ONE PIECE FILM RED』『THE FIRST SLAM DUNK』などの大ヒットで年間売り上げが過去最高を記録し、絶好調続く東映。こんなに勢い付く事はそうそうない。
そのタイミングで、節目の年。威信を懸けた超大作。
ビッグネームのキャスト/スタッフ、この題材、そしてやはり話題や20億円という製作費…。
ぜ・っ・た・い・!に、コケられない。
さて、その感想は…。
往年の創立記念作品。オールスター・ムービー。大作時代劇。
確かにそれらと比べたら、THE時代劇!…な風格さは薄い。
キャストも主演二人は推し出されているが、周りは個性的であるもののあっち見てもこっち見てものオールスター・ムービーってほどではなく、アンサンブルには乏しい。
おそらく歴史好きの方には物足りない。すでに色々言われてるキムタクの演技。…
話題だけ提供した凡作か…? 大コケ必至の失敗作か…? それ見ろの駄作か…?
そう決め付けるのは、ちょっ待てよ!
なかなかヒットさせ難いジャンルの時代劇。
重厚な作りで実力あるベテラン名優やスタッフで固めたら、それはクオリティーの高い時代劇になったろう。
しかし、ヒットしたか…? 時代劇好きや映画ファンは満足するかもしれないが、一般客や若者は…。
巨額の予算が掛けられた本作。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』じゃないけど、ヒットさせなければならない。
その為には多角的なアプローチも必要。男女問わず、多くの世代に受け入れられる…つまりは、ヒットに結び付ける。
若者層や時代劇に馴染み無い人たちの為に現代的なアプローチを取り入れつつ、時代劇の魅力を損なわず。
エンターテイメント色の強い作り。製作側が目指したのもここだろう。
その点については充分及第点。
私もそれほど歴史に詳しい訳ではないが、そんな私でも見易く、分かり易く。
見応えあり、面白かったと思う。
日本の歴史上最も有名な戦国武将、織田信長。
“泣かぬなら 殺してしまえ ほととぎす”の言い表し通り、恐ろしい。“魔王”とまで。
その一方カリスマ性があり、海外の文化をいち早く取り入れた先見の明。
人は英雄的な面に憧れ、ダークな面にも何故か惹かれる。
その両極端を合わせ持ち、あまりにも有名な最期まで、信長は日本の歴史上稀有な人物だと言えよう。
濃姫は詳しい素性や生涯など、今も尚謎に包まれているという。
一体、どんな人物だったのか…? 夫・信長との関係は…?
ある程度史実(主に信長の生涯)にそりつつ、謎の部分を大胆想像膨らませたからこそ、縛られず自由に物語=信長と濃姫のドラマを構築出来た。
政略結婚。
当初はお互い、口を開けば喧嘩ばかり。意地の張り合い。
初夜言い争いになり、信長は濃姫にねじ伏せられる。狩りも信長は失敗続きで、濃姫は次々仕留める。
おなごのくせに、生意気な奴!
そんな時…
狩りの最中、崖から落ちそうになった信長。女に助けられるくらいなら、死んだ方がマシじゃ!…なんて言いつつ、助けられる。この時濃姫は滅多に見れない海を見、異国へ思い馳せる。信長の海外視野はこれがきっかけ?…なフィクション・エピソード。
美濃の内戦により、濃姫の父・道三が死す。自害しようとする濃姫を、信長は押し留める。お主はわしの妻じゃ!…とは言ったが、内心は命を粗末にするなとの意味もあったろう。いつか必ず、わしがお父上の仇を取り、美濃を取り返す。
少しずつ少しずつ、距離が縮まっていく。決定的となったのは…
お忍びで民の村をデート。金平糖を盗まれ追い掛け、ゴロツキ連中に狙われる。やむなく反撃し、難を逃れる二人。濃姫は初めて人を殺めた。動揺する濃姫を気遣う信長。それまでの相入れない関係が消え失せたかのように、二人は初めて…。
信長の生涯や戦国の有名な戦を描くというより、信長と濃姫の関係にフューチャー。
アレそのものではないか。邦画でもよくあるド定番。
最初はいがみ合っていたが、徐々に打ち解け、惹かれ合い…。
ドSイケメン王子=ドS殿と元気ハツラツ美少女=ツンデレ姫。ユーモアも交え、昨今のラブコメ設定を取り入れた戦国ラブストーリー。
この“ラブストーリーは突然に”から円熟の夫婦愛へと変わっていく様もじっくりと。
歴戦の勇将となっていく信長。が、一人では不可能だった。
桶狭間の戦い。圧倒的劣勢で戦略もままならぬ時、策を出したのは濃姫。信長は戦に勝利。濃姫は策を出したのは夫であって…と、他言無用。夫を立てる。どんな偉人やレジェンドにも、陰の支えや内助の功あり。“信長を。プロデュース”。
認め合い、信頼し合い、切磋琢磨していきながら。
名を馳せる猛将となった信長。女子供まで皆殺しにし、“魔王”と恐れられる。人の心を捨てた夫といつしか気持ちにズレが…。流産も重なり、もう傍にはおれぬと、濃姫は離縁を乞う。
何年か過ぎて。病に伏した濃姫を、信長は再び受け入れる。相変わらず強情張る二人だが、その言い合いはかつてが戻ったよう。いや、様々な障害を乗り越えやっと安住を手に入れた感慨深さすらあった。
病を治し、お主が行きたがっていた異国へ行こう。それまでに異国の楽器を奏でられるようになっとれ。では、行ってくる。
そう言い残し、信長が赴いたのは…。
見る側はこれが今生の別れだと分かっているからこそ…。
そんな二人を、ビッグスター二人が熱演。
すでに色々言われているキムタク信長。TVドラマと同じ。結局キムタク。キムタクのまんま。キムタクはキムタク。…
彼一人が変わらぬイメージや演技のままなのだろうか。いや、トム・クルーズはどの作品だってトム・クルーズだ。ジャッキーはジャッキー、ドウェインはドウェイン、ステイサムはステイサム。高倉健は高倉健だし、勝新は勝新だし、三船敏郎も三船敏郎。渥美清は寅さんのイメージまんま。
これって、その役者にとってマイナスなのだろうか…? いや、それがその役者の魅力だ。
役者は二つのタイプに分かれると思う。演技巧者と、スター。
スターが自分のイメージやスタイルを固持しつつ、スターであり続ける事は容易ではない。
それが出来るから、スターなのだ。
では、演技力は?…と問われるが、本作のキムタクの演技は決して凡庸ではない。確かに序盤はいつものキムタク丸出しだが、うつけ者から魔王へ。魔王から人間信長へ。充分体現していたと思う。あの誰もが知る最期、炎に包まれた本能寺の中で、凄みとオーラと存在感をたっぷりに。
それでもあれこれ言う人たちは今後もたくさん出てくるだろう。一緒に観る予定だった私の弟なんぞ、予告編のキムタクの現代っぽい演技が好かんと言い、結局劇場鑑賞スルー。
ならば、誰が演じれば良かったのだろう? 時代劇が得意なベテラン俳優か? 歌舞伎とか日本伝統芸能からの演者か?
もう一度言う。それでヒットに至ったか?
本作は何が何でもヒットさせなければならない。全世代へアピール出来る集客力のあるスターが必須。キャリアがほとんど落ち込みもせずスターとしてあり続けるキムタクとカリスマ性ある信長は、似てる似てない/イメージに合う合わないよりスケールの大きさでは他に人選はなかなか居ない。
それにキムタクは信長初心者じゃない。その昔TVドラマで演じた事あり、二度目。以前とは違う信長像を体現。
キムタクも信長が二度目なら、綾瀬はるかも濃姫は二度目。(『戦国自衛隊1549』)
先述の通り素性や生涯は謎に包まれているが、あの信長の妻に収まるのだから、こちらも相当な人物だったのであろう。“マムシの娘”の異名。
信長に臆せず堂々と物言い、時には腕力でもねじ伏せる。そして妻として夫を支え、夫婦として支え合う。
綾瀬はるかの凛とした美しさ、芯の強さ、キレのあるアクションや演技力が光る。
キムタクが堂々と構え、綾瀬はるかが巧みに表す。何だか信長と濃姫の関係性そのものを見ているようだった。
助演陣はそれほど目立った見せ場は乏しかったが、サポート立ち位置。
控える伊藤英明。
濃姫の侍女に中谷美紀。以前キムタクがTVドラマで信長を演じた時、濃姫役だったようで。
音尾琢真の秀吉はなかなかハマっていた。
異彩を放ったのは、光秀役の水沢氷魚。魔王信長に心酔し、人間信長に不審を抱く。
にしても、斎藤工が家康とは気付かなかった!
ほぼほぼ信長と濃姫のラブストーリーやドラマがメインで、見せ場になるようなアクション・シーンはクライマックスの本能寺の変くらい。時代劇と言ったらの合戦を期待すると物足りないだろう。
桶狭間の戦いも台詞で勝利を告げ、序盤や中盤にも見せ場になるアクション・シーンを入れても良かったのでは…? せっかくの大作時代劇なのに、ちと勿体ない。
ラストの展開は思わず意表を付く。全く新しい信長像を描くからと言って、まさかの○○…? が、この展開は自ずと察し付く。
結構唐突にも終わる。この後が見たかった…なんて声も上がるかもしれないが、だらだら描いたら別の作品になってしまう。信長の人生はあそこで終わったのだ。
見果て、叶わなかった夢の悲劇を謳う。
エンターテイメントに徹し、往年の東映時代劇へ捧げた醍醐味も兼ねて。『るろうに剣心』で時代劇に新風を吹き込んだ大友監督の演出。
新しい信長像。濃姫との関係。史実にそりつつ、大胆解釈やフィクションも交えて。巧みな脚本で知られる古沢良太の手腕。
オープン・セットやロケ、美術や衣装や映像などスタッフの名仕事。
佐藤直紀の音楽もスケール豊か。
160分強を魅せ切る。
百点満点の名作…までとは行かず。
が、スターの魅力、現代的な感覚や要素、しっかり時代劇の醍醐味や見応えを堪能出来る一大エンターテイメント。
キムタクの映画と言うと、見もせず難癖付ける輩がいる。見てから言え!
見たら見たであーだこーだも言われる。そのくせ多くの人が観、ヒットする。
気に入らないなら無視すりゃいいし、見なければいいし、何か矛盾を感じるが、やっぱりは気になる。
百聞は一見に如かず。一見の価値はあり。
劇場へ出陣じゃあ!
こんにちわ近大さん
熱いレビュー(笑)
そうなんですよ、我々が観たいのは記録映画やドキュメンタリーではなくて“物語”。
今回の時代劇ふう現代劇はホント、トレンディーで面白かったです。
恐妻綾瀬はるかの背後には工藤静香の影も感じた僕です。