紅花の守人 いのちを染めるのレビュー・感想・評価
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紅花に心を奪われた人たちの記録
「紅花」赤でもなく朱色でもなく紅色を作り出す花
遥か昔、室町時代に中近東からシルクロードを経て伝わってきた紅花。第二次世界大戦中に国によって栽培を禁止され、戦後は安価な化学染料の台頭によって、継承の危機に瀕していた。しかし誰に頼まれるでもなく、山形の小さな農村の片隅で密かに守り継がれていたことによって、今では世界的な農業遺産となって注目され始めている。手作業で一つ一つ愛おしみながら丁寧に摘み取っていき、乾燥させて花餅に仕上げる。なんて手のかかる作業なのか?と驚くばかりだった。安価で簡単にできる化学染料もあるけれど、それでは決して作り出すことの出来ない色の持つ力。その紅花で染め上げた布で着物を作り上げる。なんて贅沢なことだろう。時間と手間と愛情と・・今の「コスパ」の先を行く「タイパ」という言葉が闊歩する時代にこそ必要なもののように強く思う。初めて聞いた「烏梅」という煤で真っ黒になった梅。国内でたった一軒の烏梅農家の中西さんの思いにも強く共感するところが有った。なんでこんな効率の悪いことをこだわってしているのか?と思う人もいるのだろう。無駄に思われるものこそ人が生きて行く上で本当に大切で必要なこと声を大にして言いたい。
かくも儚く、美しくて豊かな物語
ある染色屋の店主が言います。
「紅花は、家事も出来ない、性格も悪い、長所がひとつも見当たらないのに、ただ一点その容姿がひたすらに美しい女性のようだ」
一度その価値を知ってしまったら手に取るのも躊躇う高級織物、『紅花の守人~いのちを染める』はそんな映画でした。
紅花の妖しき赤で染められた糸がシルクロードを辿り、行き着いた先で豊かに花開く。戦争で一度切れそうになるも、そこから糸を手繰り寄せ今に繋がっていくエピソードも奇跡のようです。
パンフレットの内容がまた素晴らしかったです。
タイトルは監督の言葉「生産性、効率性が求められる現代の時間の流れのなかに、かくも儚く、美しくて豊かな物語が存在していることを喜びたいと思います。」を引用しました。
この映画の発起人である紅花農家・長瀬さんが寄せた文章も、本当に美しくて何度も読み返しました。
長く語り継がれ、世界にも発信力のある文化遺産的な映画がまた1つ誕生しました。
紅花や草木染め、東北の貿易の歴史に興味のある方だけでなく、スタジオジブリ『おもひでぽろぽろ』の独特な哀愁がお好きな方にもお勧めです。
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