劇場公開日 2022年11月18日

「そのレストランは、間違いなく存在する」ザ・メニュー ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0そのレストランは、間違いなく存在する

2022年11月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

難しい

嘗てスペインに在った『エル・ブジ』は
席数五十ほど、営業は4~10月の半年のみの三ツ星レストラン

シーズンごとにメニューが変わるため、同じ料理は二度と出されず、
客は最初に厨房に案内され、見学をしてから食事をし
食後に厨房で別れの挨拶をするとのしきたり。

その特異な有様は
〔エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン(2011年)〕との
ドキュメンタリー映画にもなり、自分は興味深くそれを見ている。

営業してない期間
総料理長の『フェラン・アドリア』は料理の研究に勤しみ、
しかし「自分自身の料理を見失った」として2011年には閉店をしている。

この映画を観ながら、彼の店のことを否応なく想起する
(勿論、自分は行ったことが無いけれど)。

孤島に在る、一日に限られた人数だけを迎え入れるレストランでの出来事を描いた
{ワンシチュエーション スリラー}。

今宵、集うのは、
その店のシェフを世に出したと自負する料理評論家、
落ち目の俳優、店のオーナーの部下、同店に何度も訪れている資産家、
そしてシェフの熱狂的信奉者などの十一人。

もっとも、彼及び彼女等の会話からは、
料理そのものよりも、
訪問することすら困難な場所に来られたこと満たされる虚栄心や
スノッブな心根が透けて見えるのだが。

いつも通りの流れで始まったコースは、しかし
中途から怪しげな空気が漂い出し、
突然の転調を迎え。

それでも会食者は、何故か憑かれたように
食事をすることを止めない、
一人の女性客『マーゴ(アニヤ・テイラー=ジョイ)』を除いては。

彼女は本来、この場に居てはいけない人間であり
加えて総シェフの『ジュリアン(レイフ・ファインズ)』が
この日の為に描いたメニューには不要な存在だったのだ。

本作は作る側と食べる側の関係性が
思わぬ方に向いた時の悲劇をかなりカリカチュアライズして描く。

食べる側は「変なモノは出さないだろう」との、
作る側は「きちんと味わって食べてくれるだろう」との、
暗黙の了解の上に成り立っていることが
破綻をした時に起きることを。

が、我々が訪れるレベルの店でも
随分と居丈高な店の側の人間は存在するし、
他方で「金を出しているんだから」とやりたい放題の客もおり。
よく言われる「お客様は神様」を完全にはき違えている人々が。

そして、店の総料理長が燃え尽きに近い状態になった時に
それを信奉する従業員も含め、どのような事態が起こるのかの。

とは言え、本編中に供される料理の数々は、
どれも実に美味しそう。

聞けば、きちんと監修を付けてメニューを仕立てているようで、
映画の企画として、期間限定で供してはくれないものかしら。

ジュン一