「石原演出の総決算」特別編 響け!ユーフォニアム アンサンブルコンテスト 猫シャチさんの映画レビュー(感想・評価)
石原演出の総決算
久しぶりの「響け!ユーフォニアム」関連作のフィルム化。見る側も探り探りといった感じの序盤に「部長になりたての久美子」の手探り感を重ねる演出が巧み。少しずつ自分を取り戻す久美子と、彼女を囲むいつもの面々との関係性を見せる事で、スムーズに「ユーフォ時空」に観客を帰還させている。OPも秀逸で、小刻みに切り替わる校内の情景や、4人が空にジャンプする躍動感溢れるカットイン、黒板を使ったコラージュと歴代低音パートのフォト挿入等、青春の輝きとエモさを持てる演出テクをすべてぶちこんで仕上げている。
石原さん、これはやってます。
登場人物の心のひだを、解像度高くフィルムに落とし込む手法は安定していて、何ら危なげない。声の演技も4年の時間を感じさせないナチュラルさ。もっとも、鶴岡音響監督ならその辺は抜かりなしと言ったところでしょうか。ハルヒの映画の時、朝倉涼子の声がちがう!と桑谷夏子さんを居残らせて声が戻るまでやらせた話は有名ですし。
演奏シーンは意図的に総カット数を減らしたい意向が見て取れますが、演者さんのリハVの時点でもう色も音も入っていたという証言から考えるに、余裕がなかったというよりは、戦略的に作画カロリーを抑えたのだと思います。この傾向は来年のTV版も踏襲するのでは?破綻なく作りきる事が最優先でしょうから、そのあとに作られるであろう久美子3年生編の「最終劇場版」まで京アニの「本気」はお預けになりそう。
それにしても、マリンバを運ぶシーンがえぐい。一見すると静的なシーンでむしろ実写的な演出に見て取れますが、実際にあれを実写でやったら間が持たないですよ。大仰な芝居を排して実写的でありつつも、アニメでないと作れない間がちゃんとある。あそこのコンテ、石原さんなのか小川さんなのか、気になるところ。
つばめのマリンバ演奏シーンも素晴らしかった。モーションブラーを使わず、バチを持つ両手の動きを高精度で描ききっている。一瞬CGかロトスコかと思ったけれど、そのどちらでもない通常の作画みたいで、驚きました。その後のマリンバ自体にカメラを潜り込ませて中から撮る画角など、実写では出来ないレイアウトにも挑戦していて、見ていて飽きない。ちゃんと見てあげれば、派手さはないけど私たちの知る「京アニ」がちゃんとあるんですよ。これは「決意の最終楽章」編が早くも楽しみですね。