劇場公開日 2023年7月7日

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「貧困と女性差別に真正面から向き合う大事な作品」遠いところ 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5貧困と女性差別に真正面から向き合う大事な作品

2023年7月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

沖縄の貧困や女性差別を題材とした映画でした。沖縄というと、第2次世界大戦時の壮絶な地上戦や、アメリカによる20年以上に及ぶ占領、そして占領が終わってからも全県下に展開される在日米軍基地や、米軍人が起こすレイプ事件などにスポットが当たることが多く、本作が取り上げた貧困やミソジニーの問題はあまり注目されて来ませんでした。そういった意味で非常に意義深い作品だったと思います。

内容的にも、工藤監督が現地で取材を重ねた結果を作品にしており、刮目せざるを得ない衝撃的なものでした。主人公は17歳で既に2歳の子供がいるアオイ(花瀬琴音)。夫のマサヤ(佐久間祥朗)が働かないので自分がキャバクラで働いています。18歳未満でキャバ嬢なんて、ホントかいなと思いましたが、ちょっとググるとキャバクラどころがいわゆる風俗でも18歳未満が働いているケースが多いようだし、またキャバクラなどの「風俗1号営業」の店舗数が、人口当たりで全国トップという記事もありました。

劇中では、「金がないならキャバクラで働けばいい」と父親や夫からも言われてしまう主人公アオイ。しかも夫婦喧嘩になると全治1週間以上の怪我を負わせるDVに及ぶ夫。さらに夫は酒場で喧嘩して人に怪我をさせたことから、アオイが示談金を用意せねばならなくなる羽目に。

これでもかと言うほどにクソ野郎が登場する本作ですが、アオイが単純な被害者という位置付けで描かれていないのもリアリティが感じられたところ。散々喧嘩しながらも、夫と相互依存関係にあるように描かれていた点は、単純なお涙頂戴物語ではなく、観る者にさらに深刻な問題を突き付けていたように感じたところです。

因みに実際の統計を見ると、沖縄の平均所得や最低賃金は全国最低水準だし、失業率もワースト1。人口当たりのDV件数は全国3位らしいです。従って、本作に描かれた沖縄の姿というのは、決して誇張されたものではないと言えるのではと思われます。

俳優陣ですが、主役の花瀬琴音は映画デビュー作にして初主演。東京出身ながらもうちなーぐちを使いこなして熱演していました。(まあ私には彼女のうちなーぐちがホントに上手なのかは判別が付きませんが。)夫役の佐久間祥朗も、ダメ夫ぶりを如何なく披露。アオイの祖母役を演じた吉田妙子は、正真正銘のうちなーんちゅ。沖縄のおばあが沖縄のおばあを演じたので、そりゃあリアリティありますわ。兎に角彼女の話すうちなーぐちが本物なので、少なくとも3分の1は聞き取れませんでした。ないちゃーが聞き取れないことなんて、工藤監督は百も承知だったと思いますが、敢えて字幕を出さないところがまた良かったです。何せ本作は、沖縄の問題であると当時に、我が国全体の問題でもある訳ですから。

そんな訳で、従来あまり注目されてこなかった問題を世に問うた本作の存在意義は非常に重かったので、高い評価を与えたいと思います。

鶏